アレイディアの覚悟
アレイディアが大きく息を吸った。
「ミュー」
「なあに」
「今日、もう一度言う。」
ミューがアレイディアを見た。
アレイディアはその瞬間素早くミューの後ろに回り込んでドアを閉める。
「ちょっとアレイディア!?」
回り込んだ場所で背後からぎゅっと彼女を抱きしめた。
「何してるのふざけないで!」
ミューから力が放たれ始めるが、アレイディアは必死で耐える。
「ミュー、俺は前に一度頼んだよね。君と永遠を生きたいと。」
「!」
「もう一度頼む。俺は君と永遠を生きたい。」
ミューの髪が白く輝き始める。
「アレイディア、駄目よ。」
「どうして?俺は君に、愛してくれとは、言わない。ただ君と同じ時を生きたい・・だけだ・・・!!」
ミューの力が強まり、アレイディアの顔が歪む。声が出しずらいほどの圧迫感がアレイディアを襲う。
「もうやめて!これ以上無理よ!アレイディア、ねえ!」
ミューの叫びを無視し、アレイディアは必死に彼女の耳元に囁く。
「頼む、俺のために・・・永遠の時を」
そして最後の力を振り絞り、ミューの首筋に強く口づけた。ミューの力が乱れる。
「!!・・・いや、やめて!!あなたを永遠に生きる人生に縛り付けたくない―――!!」
彼女の放つ力に吹き飛ばされ、ガシャーンという音と共にアレイディアは部屋の中のテーブルや椅子にぶつかり倒れた。
二人は微動だにしない。
沈黙を破ったのはアレイディアだった。
「ミュー、ごめん。」
「・・・私に、言わせたのね。」
ミューの声が低く響いた。
「うん」
「ひどいよ」
「知ってる」
アレイディアは何とかその場に立ち上がった。
「一度口にした願いは覆らない。私にどうしろと言うの?」
ミューが泣きそうな顔でアレイディアを睨む。
「俺が、君と一緒に解決策を探す。」
「・・・え?」
信じられない言葉にミューはその場にしゃがみ込む。アレイディアはミューに近寄り、彼女と目線が合うように片膝をついた。
「俺は本当に永遠を生きるつもりはない。君が幸せになれるように、願いを口にできるように、俺にも手伝わせてほしいだけなんだ。」
「アレイディア、そのためだけにこんなことをしたの?」
「そうだよ。」
「!」
アレイディアは少し切なそうに笑った。
「もちろん君を愛していることは変わらない。でももう愛されることは・・・諦めたんだ。その代わり君が幸せになる日を、最後まで見守らせてほしい。」
「そんな、アレイディア・・・」
ミューはアレイディアの覚悟と愛のあまりの大きさに、それ以上言葉が出てこなかった。
「俺は確かに弱い。ミトラ殿のように力で君を守ることはできない。でも俺にしかできないこともある。」
「?」
「君は俺を―――愛してもいない俺を永遠に生きるように縛り付けた自分を許せないはずだ。だから俺を解放するために解決策を見つけるしかないし、もう二度と生き急ぐことはできないだろ?」
「!!」
「俺はただ、君の幸せを誰よりも応援する一番でいたいんだ。君の愛する人になれないなら。」
「・・・」
「ミュー、一緒に解決策を見つけよう。諦めちゃ駄目だし死んで解決なんて絶対に駄目だ。君を大切に思う人のために君は生きるんだ。絶対に。俺のためにも。」
そしてアレイディアはおまけのように付け足した。
「もちろんミトラ殿も。まあ、あいつは俺が一緒にいるなんてとことん嫌がるだろうけど。」
そう言って微笑むアレイディアに、ミューは感極まって抱きつき、わんわん声をあげて泣き出した。
「アレイディアのばか!本当に本当に、とことんまで優しくて真っ直ぐで、ばかなひと。それとごめん。ごめんね、ごめんね、アレイディア・・・」
ミューの涙が止まるまで、アレイディアはただゆっくりと、彼女を抱きしめていた。