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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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別れと本当のこと

 午後になり体力と落ち着きを取り戻したミューは、部屋の外に出る。ミトラは部屋に戻り、ミューは一人で宿の外まで足を伸ばした。


 昨夜は全く外を見る余裕がなくこのヒムノ村に到着したが、明るい日差しの元で見ると、とてもこじんまりとした良い村だった。派手な建物やお店は無く、小さな商店がいくつか並ぶ通りがある。石畳の道が一本、村の中心に通っていて、その周囲には広く空間がとられ、綺麗な花が植わった花壇が設置されていた。


 午後ということもありそこまで寒さも感じられず、むしろ冷たい風が、日差しで温まったミューの身体を心地良く冷やしてくれている。



 少し散歩で気分転換をした後、アレイディアとライラメアに会いに行こうと決意した。本当はもっと早く会うつもりだったが、勝手をした自分を受け止めてもらえないのではと怖気付いてしまった。



 宿に戻り、まずはライラメアに会った。


「ライラ、昨日は本当に、心配かけてごめんなさい!!」

とにかく開口一番、全力で謝った。

「ミューさまああああ!!」

ライラメアは号泣した。


「ご、ごめんねライラ、本当にごめん!私が悪かったの。きちんと相談してから離れればよかった。これからどうするかはわからないけれど、あと少し、一緒にいる間はもう勝手なことはしないわ。」


 ライラメアはミューの言葉に戸惑った。


「ミュー様は、もう私を一緒に連れて行ってはくれないのですか?」

「・・・ごめんね、正直このままライラを私の事情に巻き込むことに心が痛むの。あなたはリンドアーク国の騎士、陛下に忠誠を誓った人でしょ?ここまで付いてきてくれたことは感謝してもしきれない。でも、ここからはどんな危険があるかわからないから。・・・それを昨日の事件で痛感したの。」


 ライラメアは黙ってミューの話を聞いていた。


「ライラ、私達はもう本当の友達だよね?」

「はい、もちろんです!」

「じゃあ、全てが終わったら、隠し事なく全部話す。」

「ミュー様・・・」

「だからそれまでリンドアークで待っていて。必ず会いに行くから。」


 ライラメアは涙を拭って笑顔を見せた。


「わかりました。約束です!待ってますから、ずっと!」

「うん、約束ね!」


 そう言って二人は笑顔で別れを決めた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「アレイディア、いる?」


 ミューはライラメアの部屋を出て、アレイディアの部屋に向かった。ノックをして声をかけると、少し経ってからドアがゆっくりと開いた。


「ミュー。」

「アレイディア、今話せる?」

「・・・入って。」


 ミューはアレイディアの表情が全く掴めないまま部屋に入る。ドアは少し開いている。



「座って。」

「ううん、ここでいい。」

「・・・」


 アレイディアは椅子に腰掛けて背を丸めた。


「まず、昨日は勝手なことをして、本当にごめんなさい。心配をかけたことも、申し訳なかったと思ってる。」

「・・・うん」


 顔は全く見えない。


「それと、ここからはミトラと二人で旅に出るつもり。」


 アレイディアは動かない。


「リンドアーク王の命とはいえ、こんなに遠くまで一緒に来てくれたこと、すごくすごく嬉しかった。ありがとう。でもこの先をあなたと一緒に行くことはできない。」


 彼がゆっくりと顔を上げた。


「それは俺が弱いから?それとも俺が君を愛しているから?」


 ミューは何と言っていいかわからなかった。ただ、ここで嘘をついたり誤魔化したりすることが一番彼を傷付けるとわかっていた。


「アレイディア。私はあなたのことを弱いと思ったことはない。今はまだ対処できない敵もいる。それは否めないけれど、あなたは強く、そして真っ直ぐな人。私はあなたが好きよ。かけがえのない友人で、兄で、時々ちょっとだけドキドキさせられた人。」


 アレイディアの瞳に光が宿る。


「でもこれ以上一緒にはいられない。あなたを私に巻き込む訳にはいかない。だからアレイディア。」


 ミューは泣きそうな顔で微笑んだ。


「今まで本当にありがとう。」


 アレイディアの目から大粒の涙が零れた。そのまま声も出さずに泣き続け、そして涙を拭いて立ち上がった。


「ミュー。」

「うん?」

「最後に聞かせて。」

「うん」

「どうして君は生き急いでいるの?」


 ミューは無言になる。


「それを教えてくれたら・・・ここでの別れも仕方ないと思ってる。でも君の真実を最後に知りたいんだ。」


 アレイディアは近付かない。



「・・・私は、あなたが以前予想した通り、この星で永遠を生きているの。」


 ミューは目を伏せたまま話し出す。


「私と禁忌の力には、切っても切り離せない縁がある。もしかしたら私がこの世からいなくなれば、あの恐ろしい力もそれを生み出すものも、一緒に消えてなくなるかもしれない。」


「だから君は無茶をするのか?」


 ミューは黙って頷く。


「でも自分を死地に追いやることはできない。どう足掻いても私は生きている。そしてミトラも。」


 アレイディアが畳み掛けるように聞き出す。


「どうしてそんな風になってしまったんだ?君の一番恐れていることは何?あいつが言ってた『彼女に願いを口にさせるな』ってどういうこと?」



 ミューは少し考え、決意したように重い口を開いた。



「・・・私は、心から願う強い願いを、絶対に叶えることはできない。願いが強ければ強いほど、それを口に出した瞬間に願いが逆向きに発動して、願ったことと反対の現実が起こるの。」


 ミューがゆっくりと顔を上げた。



 アレイディアはその恐ろしい告白に、しばらくの間彼女の瞳から目を逸らすことができなかった。


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