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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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通じ合った心

 ミューが次に目覚めたのは、ヒムノ村にある宿の中だった。ベッドが軋む音で目覚めた時にはもう朝だった。


 寒い、と思って布団を被る。


(昨日、私ミトラに会って、それから・・・)


 昨日はあの生物の爆発事故に巻き込まれた後、朦朧とした意識の中でミトラに会った。ミューはその後のことを思い出し、真っ赤になってガバッと身体を起こした。


(私は、ミトラと・・・!!)


 あれほど彼に迷惑をかけられないと言ってここまで逃げるように旅をしてきたのに、彼に見つかり、絆されてあっという間にまた彼の近くにいることを選んでしまった。


(はあ、自分の流され具合が本当に恥ずかしい)


 ベッドの上でがっくりと項垂れながら、ふと視線を感じて目を上げた―――


「ミトラ!?」


 そこには百面相をしていたミューを面白そうに眺めている銀髪の青年が立っていた。


「おはよう、ミュー。」


 ミューは驚き過ぎて声を失う。


「その顔は昨日のことをちゃんと覚えている顔だね。さあ、これからは本当に遠慮は無しだよ。まずは昨日何があったか聞かせてくれる?」

「ひいい!?」


 ミトラの色気が部屋に充満し、ミューはこれは本当に本当にまずい状況だと理解した。


「ええと、その昨日は、禁忌の力の元を飲み込んだ生物が、巨大化して暴走を始めておりましたので対処しました・・・」

「ふうん、それで?」

「え!?あの、それで、その生物を倒したまではよかったのですが、ちょっと爆発しまして・・・」

「ほう?」

「・・・巻き込まれまして。」

「で、このままもしかしてここで命を終えられる、と思って回復に手を抜いたの?まさかこの俺を置いていこうと?」


 ミューは痛いところを突かれて俯いた。


 ミトラが一歩近寄る。


「次の質問。何で俺を置いてまた一人で旅に出たの?」

「・・・」

「ミュー?」


 もう一歩近付く。


「はっ、それはその、もしかしたらあのウシュナという人が赤毛のゾルダーク王の従者になりすましていて、私を狙ってあの日流星宮に入り込んできていたとしたら、これから先ミトラに迷惑を・・・かける、と・・・。」

「へーえ」


 ミトラはもうベッドに腰掛けている。


「それじゃあ最後の質問。アレイディアとキスしたの?」

「!!」


 ミューはもう何も言えなかった。あのミトラが、明らかに嫉妬に駆られて怒り狂っている。その表情と事実が、彼女の全身を甘く痺れさせた。


「ねえ、それ、どんなキス?」

「どんなってそん、んっ!?」


 遠慮はしないと決めたミトラに、彼の胸を押し返すという小さな抵抗は無意味だった。そのままミューは、深い深いミトラの口づけに溺れていった―――






「・・・ミュー」


「・・・」


「俺の本気がわかった?」


「!」


「二度と俺から離れないで。アレイディアに唇を許すなんて絶対に駄目だ。俺はミューのことになると驚くほど心が狭くなるから。いい?」


 ミューは真っ赤になりながら繰り返し頷くことしかできなかった。



「さてと、それでこれからどうするつもりだったの?」

「え?」

「ん?だって俺を置いて、更に逃げるようにしてここまで来たんだろう?何か目的があって。」

「もも、申し訳なく・・・」


 ミューは優しくミューの頭を撫でる。次から次に巻き起こる甘い出来事に、ミューはもう心臓が持たない、とパニックになる。


「大丈夫?ごめんちょっとやり過ぎた。ゆっくりでいいから落ち着いて話して。」


 少しだけいつものミトラに戻ったことに安心して、ミューはこれから調べたいことを話した。


「まずは、ウシュナという人がどんな人だったのか知りたいの。彼は私に『君が私を縛った』と言った。彼の過去がわかれば私の忘れている過去にも繋がるような予感がするの。」


 ミトラはほんの一瞬悩んだ後、話し始めた。


「ミュー、君はもう予想しているかもしれないけど、ウシュナという男は、その昔管理者をしていた男だった。」

「やっぱり・・・」


 ミューの表情を確認して続ける。


「彼は俺の指導をしてくれた前管理者アミル様と同時期に存在した管理者なんだ。」

「え?同時期に二人いたの?」

「実際にはアミル様が失踪してしまって、二人が同時に管理者をしていたのはごく短い期間だった。そして彼は俺の印象だと、異様にアミル様に執着していた。」


 ミトラは遠い遠い昔を思い出しながら語る。


「子どもだったし、見えないところで何がどうだったかとかはわからない。ただ、明らかにアミル様を見る目つきは、恐ろしいほど情念のこもったものだった。あの日、君を見ていた時と同じように。」

「!?」


 ミューは一気に青ざめた。あの絡めとるように深く暗い罠を持つ瞳が、記憶の底から蘇る。


「あの人の目は、怖い」

「ミュー」


 ミトラがすかさず抱きしめる。


「大丈夫。俺を信じて。もっと俺を頼っていいんだ。絶対に何があってもミューを守る。ずっと側にいる。」


 ミューはミトラの顔を見上げた。

「約束?」


 ミトラがふっと笑う。

「そう。これは誓約じゃない、俺と君との約束だ。」


 ミューも微笑みを返す。

「うん、約束ね。」


 その朝ミューは、本当の意味でミトラと心が通じ合えたことを、心から感謝していた。


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