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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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次の一手

 ミュー達はボリスの働く店を出た後、その周囲をうろうろと例の男を探し回ったが、結局それらしい人物を見つけることはできなかった。


 アレイディアはミューの不安な様子を察して、この男の件は一度保留にして、ヒムノという村に行ってみないかと提案した。


「そうね、確かにこのままただ闇雲に探しても見つからないだろうし、かといってパン屋さんでいつ来るかわからない人を待ち伏せすると言うのもまずいわよね。」


 ミューはまるで自分の本音を誤魔化すかのように、すんなりとアレイディアの提案を受け入れた。アレイディアもあえて何も言わなかった。



 そんなやりとりの後、それぞれが慌ただしかった一日の疲れを負ったまま、宿の部屋に戻る。そしてアレイディアは部屋に入るなり、切ない表情でため息をついた。


(あいつに、会いたくないんだな)


 いや、会いたいけど会えないのか・・・そう考えた瞬間、強烈なイライラが彼を襲い、枕をベッドに思いっきり投げつけた。



 アレイディアは今朝のリリカという女性が言った言葉を思い出す。


『・・・あなたのことはなんとも思っていません!何度も何度もしつこく言い寄ってきて、いい加減迷惑なんです!・・・』


 それ以外の言葉はあまり覚えていないが、この言葉だけは頭に残り、胸にグサグサと突き刺さった。


「俺、しつこいかな・・・」


 先ほど投げつけた枕の上に頭を乗せ、ベッドに仰向けに寝転ぶ。


「まあ、しつこいよなあ・・・」


 それでも優しく友達のように接してくれるミューに、アレイディアはその晩、余計心を乱されていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 翌日、再びレンネの引く車に乗り、三人はヒムノの街を目指した。ここからはだいぶ距離があるようで、途中街道沿いの大きな街に一泊して向かうこととなった。


 フララは王都より南東側に位置していたが、今回向かうヒムノという村はテラトラリア王国内でもかなり北の方にあり、寒さの対策も必要なので、途中立ち寄る街で準備を整えることに決まった。



「ミュー、お茶をどうぞ!」


 ライラメアが水筒に入っていたお茶をミュー、そしてアレイディアに差し出した。


「ライラありがとう!でも本当にいいのよ、そんな気を遣わなくても・・・?」


 ミューが心配そうにそう言うと、ライラメアは首を大きく振って「私がやりたくてやってるんです!」と強く主張した。


 ミューも苦笑いでその気持ちを受け止めつつ、「やりすぎると泣くから!」と言ってライラメアを困らせた。


 そのまましばらくは、一行は穏やかな旅を続けることとなった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 図書館からの連絡も、その後のミューの足取りも掴めず、ミトラは行き詰まっていた。


(ミュー、図書館でなければどこに・・・。何を調べようとしているんだ?)


 翌朝宿を出て近くの通りを歩いていると、無意識に昨日のパン屋の前を通りかかった。何気なく中を覗き、昨日自分をジロジロ眺めていた女性店員がこちらを見ていることに気付いた。


(気付かないふりをして離れよう)


 と思い足を速めたが、物凄い勢いでドアを開けてその女性店員が飛び出してきた。


「あああ、あの!!昨日いらしてたお客様ですよね!」


 ミトラは店内を覗き込んだことを後悔したが、仕方がないので丁寧に返事をする。


「はい、昨日こちらでパンを購入しましたが、それが何か?」

仕事向けの笑顔で対応する。


 女性は目を輝かせながら、

「そうですよね!すごくお美しい方だから覚えてて!私その、もし良ければその・・・私とデート・・・してくれませんか!?」

と叫んだ。


 通りを歩く人たちが何事かと振り返る。ミトラは頭を抱えた。


「申し訳ありませんがあなたのお気持ちに応えることはできません。」


 冷淡にそう答えると、少し泣きそうな表情で「そうですよね・・・いきなりすみません」と落ち込んでしまった。ミトラはそれ以上かける言葉が見つからず、その場を立ち去ろうとした時、別の女性店員にも声をかけられた。


 今度はなんだと身構えたが、返ってきたのは予想外の情報だった。


「そういえば昨日お客様が出入り口で会った男性、お知り合いですか?」

「いえ、全く知らない方です。」

「そうですか。昨日あの後三人の男女のお客様が来て、その男性のことを聞いていったものですから、ちょっと気になって・・・」


 ミトラはなぜか、この話は聞かなければならない重要なものだ、という直感が働いた。


「その中に黒い髪の女性はいましたか?」

「え?ええ、髪が黒くて長い方と、肩までで茶色い方、どちらもとても綺麗な女性でしたよ。」


 ふと思い出してヘイデンにも見せたあの丸い石をポケットから取り出し、顔を確認してもらう。


「そうそう、この綺麗な方!あなたとその男性が入口で話していたと言ったらすぐ出てっちゃいましたけど、確かにこの女性です!」


 ミトラはまさかのすれ違いだったことに、思わず顔を顰めた。二人の女性店員にお礼を言い、急ぎ足で近くを探し回る。



(いや、落ち着くんだ。俺がここにいることをミューは知ったはず。だとしたらその男とやらを探すのではなく、この場所を離れる可能性の方が高い。それなら次はどこへ行く?)


 一旦足を止め、通行の邪魔にならない場所で考えを巡らす。


(ウシュナ様・・・か。そういえばウシュナ様の出生地が確かテラトラリアに・・・)


 そこにミューが向かったことを確信し、ミトラはすぐに行動を開始した。


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