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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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ニアミス

 ミトラはゲンジュに事の次第を説明した後、テラトラリア星宮の改修指示を出した上でその日の宿に向かった。疲れはあったが頭は冴えていて眠れず、食事も満足にとれないまま朝を迎えた。翌朝はまず図書館に向かおう、と早めに宿を出る。



 テラトラリア王立図書館は、他国にもその名を轟かすほどの素晴らしい図書館で、世界各地の書籍はもちろん、星宮やセトラに関する膨大な秘密文書なども収蔵されている特別な場所だ。


 図書館内は地上五階、地下二階のフロアが存在し、地上部分はほぼ全ての場所にある書籍を誰でも閲覧可能、地下部分は許可を貰った研究者や星守などが入れる場所となっている。


 それとは別に隠された場所があり、そこが特別室、王の許可もしくは管理者ミトラの許可が無ければ見つけることすら叶わない。つまり誓約で守られた部屋、禁書と呼ばれる本が存在する場所であり、その誓約をかけた本人であるミトラはいつでもどの場所へも出入り可能となっている。



「お久しぶりです、ヘイデンさん。」


 ミトラはいつもお世話になっている司書の一人に声をかけた。小さな眼鏡をちょっと持ち上げて、ヘイデンと呼ばれた四十代ほどの男が目だけでミトラを見上げた。


「おや、ミトラ様じゃないですか。三年ぶりですねえ。相変わらず男前で。」


 ミトラは微笑んで受け流し、用件を伝える。


「ヘイデンさん、こちらにここ数日の間、黒く長い髪の女性が訪ねてきませんでしたか?」


 ヘイデンが座っているこの場所は、図書館に入ってきた者が必ず通ることになる入り口の受付であり、ヘイデンは一度見た人の顔を忘れない特殊能力を持つ男だ。


「そりゃいっぱいいましたよ。でも顔を見ないとねえ・・・」


 ミトラが小さな透明の丸い石をポケットから取り出すと、机の上に置き、力を送り込む。その石が少し光ったかと思うと、石の上部に数秒だけ、ミューの顔が空中に映し出された。


 ヘイデンは首を横に振る。


「そうですか。もしこちらに彼女が来た時は、私に知らせていただけますか?」


 ヘイデンはチラッとミトラの顔を見た後、手元の書類に目を戻す。


「いいですよ。どこに連絡します?」

「いつものようにモリノさんに。」


 ヘイデンは黙って頷き、事務仕事に戻った。ミトラも邪魔しないよう黙ってその場を離れる。奥に行く必要も無いため、そのまま図書館の外に出た。



 ミトラはそこでようやく昨日から食事をとっていないことに気づき、近くの通りで店を探した。まだ昼前ということで食堂などはどこも開いておらず、何か簡単なものを買おうと、目についたパン屋に入った。



「いらっしゃいませー!」


 元気な女性の声が店内に響く。パンのいい香りが充満する店内は、たくさんのお客さんで賑わっている。


 一人の女性店員の視線を少し感じたが、特にそれを気にすることもなく、二つほどパンを購入し店を出ようとした。


 外側に開くドアを開けると、そこに左足を引き摺るように歩く若い男性が待っていた。ドアを手で押さえたままどうぞと言うと、その男性はにっこりと微笑んで頭を下げ、店内に入った。


(混雑する前に買えてよかった)


 ミトラはそのまま外に出て、近くの大きな公園に向かって歩き出した。



 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ミュー達はボリスを見送った後リリカの店を離れ、再び王都に向かうこととなった。


 レンネを預けている場所まで宿の人に送ってもらい、そこから一気にボリスの勤めるパン屋を目指す。


 途中アレイディアはほぼ何も話さず、心配しているミューにライラメアが、「あれは放っておいてあげてください!」と残念そうな表情で言うので、ライラメアととりとめもない話をしながら目的地に向かった。



 『テムトのパン屋』に到着したのは、正午を少し回った頃だった。


 店内は人で混み合っていて、しばらくは中に入れそうも無い。左足を引き摺っている人物がいないか窓越しに覗いてみたが、見当たらなかった。


 ミュー達はもう少し後に店に行こうと決めて、今日宿泊する予定の王都の宿に移動する。そこは小さいながらも清潔で温かみがあり、優しそうな年配の女性が切り盛りしている可愛らしい宿だった。


 少し遅い昼食をそこでとってから、再びテムトのパン屋を訪れた。



 その時間にはもうだいぶ人もまばらになっており、なんとか店員の一人と話すことができた。


「お忙しいところすみません。あの、こちらにボリスさんと言う方がお勤めだと思うのですが・・・」


 ミューが邪魔にならないようそっと声をかけると、その女性店員は、ああ、ボリス!と言った後、不思議そうな顔を向けた。


「そのボリスさんから、こちらに左足を引き摺って歩く男性がいるとお聞きしたのですが、ご存知ですか?」

「あの、たまに来るあの人かなー。」


 女性店員の言葉に三人は色めき立つ。


「その方がどなたか知っていらっしゃいますか?」

「いえ、さすがにそれは・・・」


 ミュー達が残念がっていると、別の女性店員が口を挟んだ。


「そういえば今日のお昼前に、あの銀色の髪の美形の男性と、入り口ですれ違ってたわよ!」


「!!」


 予期していなかった情報に、心臓が早鐘を打つのを感じた。


「ああ!そうね確かに今日は来てたわね。でも忙しくてどっちから来たかとかはわからなかったわー、ごめんなさいね!」

「いえいえ、お忙しいところありがとうございました。失礼します!」


 ミューはすぐに外に出る。


「ミュー、大丈夫?」

「ミュー様・・・」


 ミューは隠れたい衝動に駆られるが、とにかく気持ちを無理矢理落ち着かせて辺りを見回す。


「・・・ミュー、落ち着いて。きっと今はいないよ。」


 アレイディアがミューの考えていることを察して肩に手を置いた。その手の温もりに、少し気分が穏やかになる。


「そうね、うん、大丈夫。とにかくまだ例の男性は近くにいるかもしれない。少し探してみましょう!」



 そう言ってミューは足早に歩き出した。


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