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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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ボリスの来訪

 二人が宿に戻ると食堂がすでに開いていて、中に何人かの人が食事をしている様子が見えた。


 そしてその中の一人、大きなパンにかぶりついたままこちらに手を振っている男に目が止まった。


「やあやあ、アレンさん!」


 相変わらずヘラヘラと笑う大柄な男、ボリスだ。アレイディアはミューの手を名残惜しそうに離すと、ボリスに近寄っていった。


「どうも、おはようございます。ボリスさん、随分早いですね。」

「ええ、早く彼女に会いたくて、ついレンネを走らせて飛んできてしまいました!」


 アレイディアの顔が引き攣る。


「そうですか・・・それでもう彼女にはお会いになったんですか?」

「いえ、せっかくなのでこのままご一緒にどうかと思いまして。僕だけじゃ何を質問したらいいかもわかりませんし。」

「・・・」


 固まってしまったアレイディアを助けようとミューが動く。


「そうですね、まだ早い時間ですし、朝食を食べたらご一緒に向かいましょう。よろしいですか?」

「はい!わかりました!じゃあ僕はもう少しここでゆっくりしてますんで、準備できたら声かけてください!」


 ボリスはミューの方を向いてニヤニヤしながらそう言った。


 アレイディアはむすっとした表情で無言のまま、再びミューの手を引いて部屋に戻っていく。


「ミュー。あいつにはそんなに優しくするな。あんな目で君を見るなんて、全く腹が立つ!!」


 アレイディアは大声こそ出さないものの、かなりご立腹の様子だった。ミューは呆れてため息をつき、


「大丈夫よ、私は全く気にしていないわ。そういう人もいるのよ。セトラは彼も、こんな私ですら受け入れてくれてるんだから。ね?」


 今度はアレイディアの方があやされた子供のようになり、二人で噴き出して笑ってしまった。アレイディアはこの時ミューが少し苦しそうな表情をしたことに気付いたが、あえて見なかったふりを通した。


 ドアが開き、ライラメアの不思議そうな顔が覗いている。


「何ですか朝から、随分楽しそうですね。私も支度しますので、ぜひ仲間に入れてくださいませ!」


 そう言ってドアがバタン、と閉まった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ライラメアの支度も終わり、三人揃って食堂に向かう。ボリスは食堂の端の方でお茶を飲みながら待っている。


 三人は朝食を終えると、ボリスを伴って外に出た。雲一つない青空が広がり、少し風が吹いている。


「ではボリスさん、どこへ向かえばいいですか?」


 ボリスが今度はライラメアの方を見てにやついている。その視線を遮るようにアレイディアが立ちはだかった。


「え、ああ、はい!えっと彼女はこの街で花売りをしていまして・・・」


 ミューとアレイディアは顔を見合わせた。


「「あの花屋さん!?」」


 二人の声が綺麗に揃うと、ライラメアが遠い目をして「息がぴったりですね」と寂しそうに呟いた。





 結局、三人は例の花屋に再び足を運ぶことになった。


 

「あら、さっきのお客さん?・・・とボリス?」


 先ほど大きな鉢植えを抱えていた女性が目を丸くする。アレイディアの後ろにちゃっかり隠れるようにしてやってきたボリスは、彼女に気付かれて「や、やあ!」と返す。


 そして件の女性はてっきりボリスを見て喜ぶのかと思いきや、露骨に嫌そうな顔を向けた。


「え、なんでまたここに・・・」


 ボリスはその顔の意味に気付かないのか、「へへ、リリカさんにもう一度会いたくて!」などとデレデレした表情で近寄ろうとする。


 アレイディアはすかさずその進行を阻み、


「いえ、実は私達があなたにお伺いしたいことがあってお邪魔したんです。」


 と紳士的に説明した。リリカと呼ばれたその女性は少しホッとしたような顔で頷き、「とにかく中へどうぞ」と言って店の中に迎え入れてくれた。


 店の中は外で見るよりも広さがあり、思っていたよりも涼しく調整されていた。ミューが思わず涼しい!と口にすると、


「ええ、お花達のために涼しい場所を作ってるんです。奥は逆に温室になっているところもあるんですよ。」


 と、嬉しそうに説明してくれた。


「それで、リリカさんですよね。ええと私達実は先日ボリスさんに渡された手紙についてお聞きしたくてこちらまでやってきたのですが・・・」


 ミューがすかさず本題に入る。


「手紙、ああ、二度と顔を見せるなというあれですか?」

「え?」


「そ、そんなことが書いてあったのか!?」


 後ろから聞こえた悲壮感のある声に、全員がボリスを見る。口をぱくぱくさせながら愕然としているようだったので、彼を放って話を進めた。


「あれ?皆さんお読みになった訳ではなかったんですね?じゃあいったい・・・?」


 彼女の疑問にアレイディアが答える。


「あなたのお手紙の中に、黒い石のついた栞が入っていたのですが、あれはあなたのものですか?」


 リリカはキョトンとした顔になり、

「栞?そんなもの入れていませんけど。」

と答える。


 三人は一瞬思考が停止したが、アレイディアが一瞬早く何かに気付く。


「もしかしてボリスさん、あの栞・・・あ、こら!待て!!」


 ボリスはアレイディアが振り向く前に、店を逃げ出していた。


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