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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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守り人と管理者①

 リンドアーク王が顔を上げた時には既に目の前の女性は何の光も放っていなかった。しかし、これまで出会ってきたどんな優れた王にも引けを取らない威厳と、意味のわからない強い力だけが、肌にヒリヒリと焼き付くように感じられる。


 そして彼女は、光を放っていなくても輝くように美しい女性だった。



「セトラの守り(もりびと)様、この度は拝顔の栄に浴し、大変光栄に存じます。九星の王としてこれほどの栄誉はございません。」


 王は深く頭を下げ、そのまま言葉を待つ。守り人様という存在は九星の王ならば当然知っている。だが、実際にお目にかかることなど到底有り得ない事態だ。


 永き時を歩みながらこの星を影から守護していると伝えられる方。過去に何百人、何千人もの民がそのお力に救われ、その大いなる力に打ち震えたという伝説が存在し、今も「名も無い方」としてここ流星宮にいらっしゃるのでは無いかと長年噂されてきていた方だ。


(まさか本当に伝説の守り人様が流星宮にいらっしゃったとは・・・)


「リンドアーク王、ありがとうございます。ですがどうか頭を上げてください。ね?」


 声色の違いにハッとして頭を上げると、黒髪の優しそうな雰囲気の女性がそこにいた。


「というわけで堅苦しいことは抜きにして、お願いがあります。私をあなたの極秘任務を受ける兵として雇ってほしいのです、一時的に!」


 明るく笑顔で話す姿は先ほど感じた畏怖などつゆほども感じさせなくなっていた。むしろあまりに親しみやすくて、会話の内容の突飛さにすぐには気付けず狼狽える。


 大抵のことには対応力のある自分がこれほど動揺するとは王自身も驚いていた。


「はい、あー、いや、それはもちろん構わないのですが、なぜ守り人様がわざわざそのようなことをなさる必要があるのですか?」


 リンドアーク王はなんとか自分を取り戻していく。


「それは、今回の件が想定以上に長期戦になりそうだから。」


 ミューは真っ直ぐ王を見つめた。彼はその強い光を宝石に閉じ込めたような灰色の瞳から、目を離せない。


「・・・つまり守り人様もミトラ殿も、今回の件が一筋縄ではいかないと、そうお考えなのですね。」

「まあ、そういうことね!」


 ワクワクした表情でミューは続ける。


「あなたの力は九星の王の中でも抜群に高い。先ほどの私の力にも耐えられるだけの胆力と、会議の時に私の微かな気配を感じ取った察知能力の高さ、歴代の王の中でもまず敵うものはいません。だからこそ今回の件はあなたに助けを求めたいの。あなたの力そのものも必要だけれど、セトラの民に溶け込んで調べるなら、あなたの持つ『赤き剣』が一番動きやすいでしょう?」


「・・・」


 一瞬黙ってしまった王だが、すぐに冷静さを取り戻し頷いた。


「・・・守り人様には知られているのですね。まさかその名の隠された意味をご存知とは思わず、失礼いたしました。『赤き剣』は我々の国の国旗に描かれた紋様の一つで、それ以外の意味は公式には全く出ておりません。そして仰る通り、私個人の秘密部隊ですので民衆に、もしくは五星(セトラル)以上の貴族達に紛れていかようにも動かせます。」


 一つ大きく息を吸って王も真っ直ぐにミューを見つめ返した。


「私もあの件は内密に調べるつもりでおりましたので、守り人様方のお力を貸していただけるのであれば、これ以上の力強い味方はございません。」


 それを聞きミューはにっこりと王に微笑むと、ミトラの方に顔を向ける。


「ミトラ、そういうわけで今回は王のお力を借りて一人で潜入してきます。」

ミトラは首を横に振り、鋭い目つきで答える。

「いえ、お一人では行かせられません。」


 窓際の壁に寄りかかるようにして立ち、普段王達には見せることのない感情的なミトラがそこにいた。


「これまでのように、たまたま“アレ”を手にしたものが私欲のために道を踏み外しただけなら簡単に対処出来ますが、今回はそうではない。相当知識のあるものが“アレ”を組織的に、そして大掛かりに悪用しようとしています。王のお力添えは心強いですが、お一人で動くなど・・・しかもそんな長期間あなたを放っておいたらどうなることか!」


 ミトラの眉間にどんどん皺が増えていく。


「でもほらミトラは仕事も溜まってるし・・・」

「あなたを放っておく方が心配でよほど仕事に手がつきませんよ。」

呆れたように答える顔を見て、リンドアーク王が小さく噴き出した。


「ふっ、いやこれは失礼した!いつも冷静なミトラ殿のそんな顔は初めて拝見したのでね。とにかく私としては『赤き剣』が全面的に守り人様をお守りするということだけはお約束いたしましょう。」


 穏やかな笑顔で王が微笑むが、ミトラは不機嫌顔のまま答える。


「ありがとうございます。ですが本人はおそらく精鋭達が束になっても敵わないほどお強いのでそうした心配はしておりません。」


 王は目を細めた。


「ほう。つまりミトラ殿は安全面以外の別の何かを心配していると。そして私にどこまで情報開示するかお悩みということですかな。こちらとしては協力関係を望まれるのでしたら、最低限の情報はいただきたい。だがこの場所の不可思議さや守り人様のお力を見ると、隠さなければならないものがあるのも当然でしょう。・・・それならば・・・」


 右手の人差し指で顎をトントンと叩きながら少し思案した王は再びミューに向き直り、今度は自分の意志で跪いて胸に手を当てた。


「私、カーライアス・シオン・リンドアークは秘密保持のため、ここに守り人様へ九つ目の星を捧げることを誓いましょう。」


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