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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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テラトラリア①

 ミュー達を乗せた船が、ようやくテラトラリアの港に入港した。強い海風が髪を巻き上げる。温暖だが暑くは無い、過ごしやすい気候に気持ちも少し晴れる。


 入国の手続きを済ませて船を降りると、レンネが引く車が何台も並ぶ場所が見えた。


「ミュー様、じゃなくてミュー、あちらの車を借りて、今日は王都の隣にあるフララという街に向かいます。お荷物は・・・いえ、何でもありません・・・」


 ライラメアは相変わらず世話を焼きたがっていたが、ミューは無言の圧力で回避している。



 アレイディアは先に車の手続きに行ってくれたので、ライラメアと共にゆっくりと、美しい毛並みのレンネ達が並ぶ場所に近寄っていく。


「とても楽しみだわ!」

ミューが素直に目を輝かせてそう言うと、ライラメアが眩しそうにその様子を見守っていた。



「さあ、行こうか。」


 アレイディアが戻ってくる。三人は車に乗り込み、フララという街に向けて出発した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 同じ頃、ミトラはリンドアークに向けて出発するための準備をしていた。


 ミューがいなくなってすぐ、二人でリンドアーク王にお礼を述べに行った際、ミューの様子が少しおかしかったことを思い出した。


 大事な話をしそびれたとミトラを置いて一度城に戻った彼女が、一体何の話をしたのか、それを王に聞き出すために再びリンドアークに向かうことにした。



 そこで昨日モリノと話し合いを持ち、管理者代理として彼に仕事の多くを一旦預ける形にした。どうにもならないものに関しては連絡をもらえれば戻るのでよろしくお願いします、と頭を下げた。



 モリノは星守達の中でも群を抜いて強い力を持っている。ただ、管理者にしかできない仕事がある。それが九つ目の星を与えること、同盟誓約を結ぶこと、そして―――


(星を奪うことができるのは管理者だけだ。ではウシュナ様はまだあの力が使えるのか?)


 ミトラは荷物を詰めながら考える。


 王子の星を奪い、それを別の者に移すなど普通の人はもちろん、星守でもできないことだ。星との契約をした者だけに使えるこの力は、管理者でなければ行使できないほど重い負担のある力だ。


 だとしても、とミトラは悩む。


(ウシュナ様は管理者を外されたはず。どこからその力を得ているんだ?)


 あの日考えないようにしていた疑問が次々にミトラの頭を駆け巡る。そしてミューがあの男と何を話したのかも。


(あんなに怯えて、手が震えていた。あの時きちんと彼女の話を聞いておけば、こんなことには・・・)



 後悔の棘が際限なく彼の心に傷をつけていく。



 ミトラはミューのバングルを握りしめたまま、荷物を持ち部屋を出た。するとそこにモリノが立っていた。


「ミトラ様。これは話そうかどうか本当に悩んだのですが・・・お二人のために、お話ししておきます。」


 苦しそうな表情でモリノが唇を噛んでいる。


「モリノさん、どうされたんですか?何の話です?」

「実は、ミュー様から、お二人がお出かけになる前の日にあることを聞かれまして・・・」


 ミトラがミューという名前に敏感に反応する。


「いったい何を聞いたんですか?」

「はい、『ウシュナ』という人の名を知っているか、と。」

「・・・その名を聞かされていたのか。」


 モリノはどうやらミューと二人だけの話をミトラに話してしまうことに罪悪感を感じているようだった。


「それで、知っていますとお答えしました。ミトラ様の前任の管理者様で、なぜか失踪されてしまい、そこからの消息は不明と。限られた者しか知らない知識ではありますが、ミュー様でしたのでついお話ししてしまい・・・申し訳ございません。」


 ミトラは荷物を一旦下ろし、モリノの話にじっくりと向き合う。


「いえ、そんな。仕方ないことです。ただ、なぜ彼女がモリノさんにそんなことを聞いたのかが疑問ですが。」


 少し下を向いてモリノが考え込みながら続ける。


「ええ、私も気になって聞いてみたのですが、星を奪える力を持つのは管理者だけだからもしかしてと思い聞いてみた、と不穏なことを仰って・・・」

「やはりそこに気付いたのか。他には何か情報を?」


 ミトラは強く拳を握る。


「私は詳しくは知らないので、そうした古い公式文書が置いてあるテラトラリアの図書館などなら、もしかしたらもっと詳しいものがあるかも、とお伝えしました。」

「でもあそこは特別な許可がないと、そうした特殊な本は閲覧できないはずです。そのことは?」

「伝えましたが、わかったと仰ってそのまま・・・そこからお会いしていないのです。」


 モリノの申し訳なさそうな表情に、安心させようと少し微笑む。


「わかりました。二人の内密なお話しだったのに教えてくださって・・・本当にありがとうございました。」

「いえ、私も心苦しいのですが、ただ・・・私はミトラ様にもミュー様にも、もう幸せになって欲しいと願っているのです。」


「!」


「お二人とも、そろそろご自分達の幸せのために生きられても良いのではありませんか?」


「・・・モリノさん、ありがとう。」


 ミトラは本心からの笑顔を向ける。


「いえ私など何も。せめて管理者代理として、できる限りのことはさせていただきます。もう私は自分を幸せにしているのでね!」

「そうでしたね。ご家族もいらっしゃるのですから無理はされないように。何かあればすぐに連絡を。では、よろしくお願いします。」

「はい!」


 

 モリノに笑顔で見送られ、ミトラは行き先を変え、テラトラリアの星宮へ向かっていった。


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