栞
ミュー達はだいぶ船内で目立ってしまったので、エルナという女性の無事を再確認した後、すぐにその場を離れた。
栞は念のため預からせてほしいとお願いしたところ、怖そうな物のようなので差し上げますと言われ、貰ってきてしまった。
ミューの部屋では話し合いが始まった。ただしライラメアにはまだ秘密にしなければならないことが多過ぎるため、しばらくの間部屋から離れてもらっている。
「あの栞は例のウェンデルの部下が持っていた物に酷似してる。だけどあんなとんでもないものがそう簡単に出回るか?あの男が持ってたのは理解できる、偽の王が持たせたんだと思えるから。でもなんで平民の女性が手紙にあんなものを仕込めるんだ?」
ミューもうーんと唸りながら考え込む。
「あの栞も栞に付いていた石も、確かにあの男が持っていたものにそっくりだけど、感じた感触はだいぶ違っていたわ。」
「どんな風に?」
思い出しながらゆっくりと答える。
「あれは、何というか、今日の石は一般的なっていうのも変だけど、ありきたりな禁忌の力を秘めた石。見るか直接触れないとそうであるかわからないくらいのもの。」
目をギュッと閉じて思い出す。
「でもあの日のあの石は、部屋の外まで力が漏れるほどの代物だった。しかも、力の動きが二重になっているような、そんな感覚だったの。」
アレイディアも首を捻る。
「どうしてそんな違いが出たんだろう。同じ栞ってことは石も同じだったんだろう?」
「うん、記憶が正しければ、ほぼ同じ大きさ、同じ色、濁った感じの黒い小さな石だった。そう考えるとあの栞の出処を探すのが先決ね。」
アレイディアと顔を見合わせる。
「じゃあヒムノの村は後回しで、とりあえずあの栞について調べよう。さっきの男に俺が会って話を聞いてくるから、ここでライラメアと待っていてくれ。」
「ありがとう、アレイディア。頼りにしてます!」
笑顔で拝むように手を合わせると、真顔になって
「なんか違う」
と言いながら部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アレイディアは先ほど騒動を起こした男性と向かい合って話をしている。
「先ほどは助けていただきありがとうございました。ええと、それで何をお聞きになりたいのでしょうか?」
大きな身体でモジモジと手を合わせている様子に、アレイディアは小さな苛立ちを感じる。
「ああ、いえ。実はさっき見せていただいた手紙の件ですが、あの中に入っていた栞に見覚えはありますか?」
「えっと、黒い小さな石が付いているやつですよね。いや、僕は全く心当たりがないです。あ、でもこれを送ってくれた彼女に聞けばわかるかもしれません!テラトラリアの王都の端の方に住んでいるんで、会いに行って聞いてみましょうか?」
アレイディアは一瞬無言になる。
「エルナさんという方が怒るのではないですか?婚約者ですよね?」
目の前の男はヘラヘラしながら照れている。
「まあそうなんですが、その、手紙の彼女はすごく美人でして・・・ちょっとこの機会にまた会えればなと!」
アレイディアは嫌悪感を隠そうともしない。
「そうですか、まあ俺には関係無いことですが。少なくとも俺は愛する人がいて他の人に目移りすることは考えられないので不思議ではありますけど。」
男はへへへと笑う。
「ああ、あんな美人を連れていればそうでしょうねえ!どっちも美人で羨ましい!」
アレイディアはもう話す気が失せてしまい、とにかく彼女に栞の入手先を聞いてほしいと伝えた。後日王都に近い「フララ」という街で会う約束をして、そのまま別れた。
イライラする気持ちを無理やり抑えて、アレイディアはミューの待つ部屋に戻って行った。