予約された一日
私はゾルダーク王国を離れた。
チェルシアンナとの別れは辛かった。必ず会いに来ると約束し、いくつもの高級茶葉をお土産に持たされ、涙に濡れながらの別れだった。
フェルディアムや王子達ともお別れの挨拶を交わし、トール夫妻には心からのお礼と感謝の気持ちをお伝えした。
そしてアレイディアは―――
ミトラの転送陣にて、王都に戻した星宮から、リンドアークの星宮へと転送する形で帰っていった。騎士達と共に。
別れ際、アレイディアに一瞬だけ抱きしめられた。でもなぜかそれは、家族のような温かく優しいものだと感じた。ミトラは少し睨んでいたけれど。
そして今日、私はミトラとの予約された一日を過ごす。
「ミュー、おはよう。」
ミトラがこの間のようにベッドで眠る私を布団ごと抱きしめている。驚いて飛び起きようとしたががっちり抱きつかれていて動けない。
「ミトラ!?え、ここからスタートなの?」
と聞くと、そうだよとあの照れたような顔で微笑む。
ミトラを説得して部屋から出てもらい、とっておきの涼しげなワンピースに着替える。流星宮周辺は涼しいけれど、今日は少し暑いリンドアークに向かう。
リンドアーク王へのお礼のためと、前回来た時に遠くに見えた東の海を近くで見たかったからだ。
まずはミトラと共に王城に出向き、リンドアーク王と話をした。謎は残ったものの、なんとか戦争を回避できたことは本当によかったと、三人で喜び合った。
そしてそのままミトラと一緒に海の近くの街に向かう。
そこはとても美しい街で、高さのある岩場の合間に砂浜がそっと姿を表す場所が隠れていて、その風景の素晴らしさにしばらくミトラと感動していた。
砂浜が長く続く場所の近くには、平家の可愛らしい建物がたくさん並んでいた。白い家々にはポーチが付いていて、その家の住人らしき人達がそれぞれゆったりと海を眺めている。
そんな一角にある宿は、美しい海を一望できる素敵なところだった。
ミトラと街を散策し、笑い合い、事件のことには一切触れず、たくさん話をした。
夜になると宿の近くの浜辺に出て、手を繋いで空を見上げた。あの日のように星は降っていなかったけれど、綺麗な夜空が海の上に浮かんでいた。
「ミュー、今日はありがとう。素敵な一日だった。」
ミトラが静かにそう言った。海を見たまま。
波の音がとても耳に心地良い。
「こちらこそ。ミトラとここに来られてよかった。」
私はミトラの横顔を見上げた。いつも私に優しくて、いつも私を見守ってくれる人。
「また来よう?」
ミトラがふと私を見た。不安そうな瞳が見えた。
「うん。またいつか。」
私は目を伏せる。
そして翌朝、私はそのままミトラを置いて、旅に出た。