王城へ
緩やかな坂を上がり、そこから細く、入り組んだ道に曲がっていく。ミュー達はチェルシアンナの先導で、王城への抜け道を進んでいるところだ。
今朝三人で意思確認をし合い、全員一致で王城に向かうことが決まった。
そして現在。知らない人が通れば確実に迷い、とんでもない場所に抜けてしまうような複雑な道、人一人しか入れないような道を急ぎ足で歩いている。
チェルシアンナは全く迷うことなく進み、十分ほど歩くと少し崩れた壁が目の前に現れた。
「開けるわね。」
チェルシアンナの声に二人は無言で頷く。
崩れた壁と思っていた場所は、実際にはそう見せかけただけのもので、見えにくい場所にあった窪みにチェルシアンナが手をかけると崩れた壁も一緒にずずずと音を立てて動き、狭い隙間が現れた。
周りに人がいないことを確認してから中に入り、壁を元に戻す。チェルシアンナ唇に指を当て、「ここからは静かに行きましょう!」と小声で話し、ミューが『光』を足下に照らしながら、音を立てないよう進んでいった。
城の庭の地下に造られたと思われるその通路は、ほぼ岩や土を削っただけのトンネルで、時々パラパラと土埃が落ちてきたりするのでミューは落ち着かなかった。
かなり遠回りしているような気がしたが、そのままゆっくり進んでいくと、少し奥の方にそれまでとは質感の異なる石の廊下のような場所が見えてきた。
「ここよ!」
とチェルシアンナが口の動きだけで指を指している。『光』を少し暗くして、その一番突き当たりにある扉らしき部分を向こうにそっと押した・・・
眩しさに目を細めていると、段々と目が馴染んで周りが見えてくる。そこは綺麗なタイル張りの床と、窓が連なる明るい廊下のようだった。
廊下側から見ると扉は全く目立たず、壁の模様の一部と化している上、目の前には大きな胸像が置かれていた。
胸像の後ろからそっと辺りの様子を窺うが、驚くほどに静まり返っている。
「なんでこんなに静かなのかしら?」
チェルシアンナが小さな声で呟く。
「とりあえず少し移動してみましょう。もし見つかってもチェルシアンナ様なら問題ないはずです。何かあったら僕が守りますので。」
アレイディアが頼もしくそう答える。
ミュー達は互いに頷き合い、そっと廊下を移動した。チェルシアンナの行き先はもう決まっている。彼女の夫が働く執務室だ。
誰にも会わないまま淡々と進んでいき、ノックもせず目的の部屋を開けた・・・
「あなた!?」
チェルシアンナが真っ青になって倒れている彼女の夫に駆け寄る。
「どうしたの?ジュリアンねえ起きて!」
ジュリアンというのが彼の名前なのだろう。ミューは彼に縋り付くチェルシアンナを引き剥がして、アレイディアに任せる。
「私が治癒をかけますから、待ってください!」
そっと彼の様子を確認すると、顔色が青というより黒っぽくなり、呼吸がかなり浅くなっているのがわかった。そして、それがあの力の影響だということも。
ミューは手を彼に当てて、いつものあの感覚を探る。だいぶ根が深い。もう何日もあの力に晒されていたかのような状態だ。
少し強く力を流し、浄化は完了した。まだ青ざめてはいるが、先ほどより元気そうだ。
「チェルシアンナ様、どうかしばらく旦那様といっしょにいて差し上げてください!後ほど必ずここに戻ってきますから。」
ミューがそう言うと、彼女は少し泣きそうな顔で、ただ頷いた。
「私達は王のところへ行きましょう!」
アレイディアもまた黙って頷いていた。