表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
65/178

甘く苦しく

 ミュー達は翌日朝早くに王都に戻り、その日はゆっくりと過ごしてから、明日一番に全員で今後の作戦を練ることになった。



 帰ってからわかったことだが、城内に大きな動きは無いものの、相変わらずチェルシアンナの夫は自宅に戻ってきていないとのことだった。


 チェルシアンナは帰ってきて早々にミューを部屋に招き、自らの手でお茶を入れる。


「ここまで帰ってこないなんて、夫にやはり何かあったのかもしれないわ。でも、まずは私達ができることをしましょう。それでね、ミューラさんにぜひ王子に会って欲しいと思っているのだけど、どうかしら?」


 と真剣な顔で話し始めた。


 ミューはチェルシアンナの自室でクッキーを頬張っている最中だったので、突然の提案にげほげほむせてしまい、チェルシアンナが慌ててお茶を注いだ。


「ごほっ、す、すみません!ありがとうございます。・・・王子にお会いするのですか?フェルディアム様のところにいらっしゃるんですよね、確か。」


 チェルシアンナは今度は自分のカップにお茶を注ぐ。


「そうなの。このままでは埒が開かないし、どこかに打開策を見出さないとどんどん悪い方向に向かっていくような気がしてしまうのよ。ね、どうかしら?会ってもらえる?」


 ミューは少し考え込んだが、思い切ってその依頼を承諾した。


「わかりました。明日、話し合いの後にお会いしてみましょう。何ができるかわかりませんが、少なくとも私はチェルシー様の大切にされている方にお会いしたいから。」


 そう言うとチェルシアンナはうるうるとした瞳でガバッと抱きつき、「ミューラさん大好きよ!」と小さく叫んだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 明日の予定が大体決まったところでミューは部屋に戻り、ソファーに寝転び、目を閉じた。


(ミトラがきちんとした儀式をするところを初めて見たかも)


「ミトラ・・・かっこよかったな・・・」


 小さく口に出してしまい一人で照れる。ミトラの真剣な眼差しも、憂いのある表情も、仕事に対して一切の手を抜かず自分を律して取り組む姿も―――


(本当にかっこいい)


 ソファーのクッションをそっと抱きしめ、胸の中に広がる甘さと苦しさにゆっくりと浸っていく。



「そんなに褒めてもらえるとは思ってなかったよ。」



 ソファーの後ろから声が聞こえ、ミューはビクッとして飛び起きた。



「ミトラ!?」



 そこにはいつものような余裕の笑顔ではなく、少し照れたような優しい微笑みの彼がいた。



「ミュー。二つ用件があるんだ。」


 ミトラがソファーの背の後ろにしゃがみ込む。


「なあに。」


 ミューはミトラの方を向き、背もたれに腕を乗せ、ほんのりと頬を染めながら言葉を待つ。


「予約。この件が落ち着いたらミューの一日を俺にくれる?」


 ミトラが上目遣いの薄紫色の瞳でミューを見つめる。


「・・・うん、いいよ。」


「良かった。それと二つ目。」



 ソファー越しにミトラの手が、ゆっくりと、慈しむようにミューの頬をなぞった。



「手数料、ちょうだい?」


「ミトラそれ・・・だって冗談で―――」



 ミトラの瞳はもう揺るがなかった。ただひたすらに甘く蕩けるような視線がミューに絡みつく。



「ミュー」


「ミト―――」




 約束通り、でも時間をかけて、二回の優しいキスが、ミューの唇に落とされていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ