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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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同盟誓約④

 翌日は良い天気に恵まれ、少し汗ばむような陽気だった。ミューはチェルシアンナとフェルディアムと共に車に乗り、アレイディアを迎えに行く。


 トール邸に着くとアレイディアが外で待っていた。


「ミューラ、おはよう。」


 アレイディアはいつも通りに義兄の顔を見せながら車に乗り込む。車内で互いに紹介を終え、落ち着いて席に着いた。しばらくは当たり障りの無い話をしていたのだが、フェルディアムが席を立つと、チェルシアンナがそっとアレイディアに話を振った。


「ところでミューラさんのお義兄様は、ミューラさんの今後をどうお考えかしら?」


 チェルシアンナの言葉にミューはギョッとして口を挟む。


「え!?チェルシー様あの!」


 アレイディアはチラッとこちらを一瞥してからチェルシアンナに返事をする。


「今後と言いますとどのような?」

「もちろんご結婚のことですわ!貴族はその力の強さを受け継いでいかなければならないでしょう?当然色々縁談のお話が来ているのではないですか?」


 チェルシアンナはワクワクとした表情でアレイディアの返答を待っている。


「そうですね、実は私が一番に名乗りをあげておりまして・・・」

「お義兄様!?」

「まあ、そうだったのミューラさん?」

「ああもう・・・」


 ミューが頭を抱えている様子をアレイディアが面白そうに見ている。チェルシアンナはあらあらと言ったきり黙ってしまった。フェルディアムは少し離れた所に座って本を読み、音を消しているようでこちらの様子には気付いていない。


(また面倒なことになったわ・・・)


 アレイディアは「少し向こうで休みます」と言って席を離れ、ミューはその後チェルシアンナに質問責めに合う羽目になった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ゆっくりと車は穏やかな低地を走り続け、それほど時間がかかることなく無事に目的地に到着した。


 近くで見上げた星宮は、新たにそこに建てたというよりも元々そこにあった古い建物を星宮として使っている、という様相だった。



 中に入るとそこは少し暗くひんやりとしていて、外観からは想像できないくらいすっきりと清潔な環境だった。


「まあ、初めて来たけれど、星宮はとても綺麗な場所なのね・・・」


 チェルシアンナの声が静かに建物内に響く。王家の人間は城に直接星守が来るので、星宮に赴くことはほぼ無い。彼女は仮に設置された場所ではあるが、初めての星宮来訪に心を躍らせているようだった。



「ようこそゾルダーク国星宮へ。」


「まあ、星宮にはこんなにお美しい星守様がいらっしゃるの?」


 チェルシアンナの驚く声に振り返ると、ミトラの仕事向けの笑顔がそこにあった。


(これは知らないふりをするのが正解よね?)


 そんなミューの考えを一蹴するようにミトラが近づいてくる。


「え・・・?」


 ミューの手を取り、照れたような甘い笑顔を向けた。


「行きましょうか、ミューリエラ様。皆様もこちらにどうぞ。」


 チェルシアンナの好奇心を刺激するようなことをこれ以上増やしたくなかったのに・・・とミューは心で嘆きながらエスコートされて奥に入っていく。後ろにいる二人の視線が刺さるように感じるが、振り返ってはいけないと自らを戒めた。


 

 奥の部屋に入ると、ここは一転して外からの光を多く取り入れた明るい部屋となっていた。吹き抜けになっている天井にはキラキラと反射するようなシャンデリアの光が揺らめき、天井近くまで伸びた大きな格子窓が優雅なアーチを描いていた。



 ミトラがそっとミューの手を離し、一番奥にある台のようなものに近付く。


 何の指示も受けていなかったが、自然とみんなが彼の前に集まった。


「それでは始めましょう。本来であれば同盟誓約には煩雑な手続きが必要となりますが、今回は私の大切な方のご依頼ですので簡略化した形で進めさせていただきます。簡略化といっても内容や効果に違いがある訳ではございませんのでご安心を。」


 ああ、とミトラが微笑む。


「申し遅れましたが、私は星宮管理者のミトラと申します。最低限の手続きに加えてこのままここで誓約を行います。よろしいでしょうか?」


 全員がこの場の荘厳な雰囲気とミトラの声に呑まれ、ただ黙って頷いている。


「それではまずこちらの台でお一人ずつ書類に目を通し、お名前をご記入ください。」


 一人ずつ名前を書き元の場所に戻ると、タイミングを測っていたかのように後ろのドアが開き、男性が抱えきれないほど大きい、透明な鉱物の結晶を運んできた。何とか台の上に載せると、すす・・と後ろに下がり、邪魔をしないように壁際に控えている。


 ミトラが台の近くに寄るようにと声をかけた。


「全員でこの石に触れてください。誓約をかけている間絶対に手を離さないように。」



 ミトラが目を閉じて力を溜め始める。少しずつ彼の身体から光が溢れ出した。


「セトラの管理者『ミト』がセトラの星と共に同盟誓約の儀を行う。始めに、この誓約を破る者は星から与えられた全ての力を失い、二度と得ることは叶わないことをここに宣言する。この場に集う者達は互いに互いの生命と心を守り、揺るぎない信頼関係を築き共に生きること、また、互いの秘密を保持し、強い結束と信念を持ち生きることをここに誓約せよ。」


 全員が黙って深く頷いた。


 結晶の隅々にまでミトラからの光が流れ込み、それが部屋全体に広がっていく―――



 目を開くと全ては終わっていて、あれほど大きかった石がカケラも残っていないことに全員が驚いた。皆自分の手に感じていた石の感触が解けていくのも不思議に感じていたようだ。



「同盟誓約はあなた方に手のひらに刻まれています。解除する場合には全員の許可が必要となりますのでよくよく心に留めておいてください。」


 ミトラはそのまま入ってきた扉まで歩いて行き、扉を静かに開けて、全員がその部屋を退出するのを黙って見守っていた。


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