同盟誓約②
翌日、ミューはライラメアに頼み、チェルシアンナに急ぎの手紙を届けてもらった。すぐに返事を書いてくれたようで、『今日にでもいらして』という簡単なものだったがミューはそれを見て少しほっとした。
すぐに支度を整えて部屋を出る。前の晩にトール夫妻には事情を簡単にお伝えし、了承してもらった。夫人からは『寂しいわ!』と嘆かれたが、アレイディアはむっとしたままだった。
「ミュー、もう出るの?」
ミューが部屋を出るとすぐ側の廊下の壁にアレイディアが寄りかかって待っていた。
「ええ、お義兄様。彼女が心配だから早めに行くわ。」
ミューは力を纏わせる。
「俺から離れたい?」
アレイディアはゆっくり近づいてくる。
「それは今回の件とは関係ない。」
アレイディアが間近に立った。
「関係なくても、もう俺には触れてほしくないんだな。」
「・・・だってあなたは私のお義兄様でしょ?」
ミューは自分より少し背の高いアレイディアを見上げる。
「そんなの最初から嘘だし、ずっと俺は君のことを妹だなんて思ってないよ。」
アレイディアはわかっていると言わんばかりにミューの周りを覆う力に触れる。
「すごいね、これ。」
「・・・」
「でももう決めたんだ。」
「?」
アレイディアが曇りの無い目でミューを見て、言った。
「俺も、君と共に永遠を生きていきたい。」
突然、強い風が巻き起こりミューの髪色が変化した。白銀に光る髪が風に揺れる。
「アレイディア、馬鹿なことを言わないで。」
アレイディアは動揺する表情すら見せない。
「本気だ。そうでもないとあいつと同じスタートラインに立てない。どういう経緯でそうなったのかわからないけれど、あいつは永遠の時を生き、君もそう。それなら俺にも可能なんだろう?」
ミューの力が溢れる。アレイディアはその力の大きさに全く身動きが取れなかった。
「可能であってもそれはしない。あなたはあなたの時を生きるべきよ。」
「それが君の願いなのか?」
「私は――― 」
「ミュー」
ミトラが不意に現れる。彼女の肩を後ろからそっと抱いた。風と強い力が収まり、ミューの髪色が元に戻る。
「彼女に願いを口にさせるな。」
アレイディアの前から二人が風に包まれて、消えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミューはミトラに送られてリーブス邸の前に着いた。彼は一言も話さないままミューを送り届けると、寂しそうな笑顔を一つ落としてその場を去っていった。
荷物を抱えたまましばらく呆然としていたが、ミューは気を取り直し門をくぐった。
玄関の呼び鈴を鳴らすと、奥からまさかのチェルシアンナ本人が現れた。
「ミューラさん、待っていたの!ああ、こんなに早く来てくれるなんて嬉しいわ!さあ入って入って、もう部屋は用意してあるのよ!」
チェルシアンナが腕を取り嬉しそうに招き入れる。
部屋に案内されると、そこもまた素晴らしいものだった。白と金を基調とした飾りの美しい家具や、薄いブルーの寝具、カーテンなど、どれも控えめながら素晴らしい模様が施され、ミューは目を奪われるばかりだった。
「チェルシー様、こんなに素敵なお部屋をお借りしてよろしいのですか?」
「あら、もちろんよ!あなたが喜んでくれると思って準備したの!ねえ、まずはゆっくりお茶でもいただきましょう?」
ミューは荷物もそのままに、チェルシアンナに連れられてテラスで美味しいお茶を堪能することとなった。