それぞれの事情②
アレイディアが部屋に戻ったのを恨めしそうに見送った後、ミューは結局部屋に戻ってベッドに突っ伏した。
(ミトラに会いたい)
アレイディアに触れられた頬が少し熱い。それでもミトラを想うようには、彼を想うことは無い。
(少し対策をしておかないと駄目ね・・・)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「柔らかかった・・・」
アレイディアは部屋で余韻に浸っていた。さっきはまるで余裕があるかのように装って部屋に戻ったが、余裕どころか自分の欲望に飲み込まれる寸前だった。
「危なかった・・・。」
ふう、と浅い呼吸を整えて、ミューを想う。
「本当に重症だな俺は。」
彼女に気持ちがないことはわかっていても、自分のちょっとした言葉や行動で喜んだり心配したり動揺したりする様子をみると、つい期待してしまう。
赤面していた彼女を見て気持ちが決壊した。たったそれだけのことで、だ。もし今後彼女が―――
アレイディアは頭を激しく振ってそれ以上のことを想像するのをやめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ミトラが支度を終えて部屋を出る。
(どういう形で合流しようか?)
今彼女はトール家にお世話になっているが、全く面識のない自分までお邪魔する訳にはいかない。だとするとアレイディアの側から彼を引き離すためにも、ミューにトール家から出てもらって別の家に滞在してもらうか、宿を取ってもらうか・・・
そこまで考えてからふと思う。
(俺はこんなに嫉妬深かったのか)
いや、アレイディアが面倒な敵というだけだなと思い直し、とりあえずミューの待つ部屋で話し合おうと気持ちを切り替えた。
(ミューに早く会いたい)
そしてミトラはバングルを右手に持ち、彼女のところへ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつものようにミューの部屋に現れたミトラは、ミューがベッドに突っ伏している様子を見て目を丸くする。
「ミュー、何をしてるの?」
ミューがビクッとして頭だけこちらに向ける。
「え?ミトラ?あれ、だって連絡くれるって・・・何で来ちゃってるの?というかずっと思ってたんだけど、許可なしに勝手に部屋に入るのはやめて!着替えとかしてたらどうするの!?」
ミトラはキョトンとした顔で答える。
「え、それは幸運だなと思うだけだけど。」
「・・・」
ミューは顔を元に戻し、クッションに顔を押し付けた。
「ねえミュー。」
声が近づいてくる。
「なあにミトラ。」
熱を感じる。
「ベッドで抱きしめるのはアリなの?」
ミューは慌てて起きあがろうとしたが、もう遅かった。
ミトラの腕の中にいる。温かくて優しくて、少し花の香りがする。
「・・・事後承諾はナシです。」
「そう。じゃあ今度は事前に予約を入れるよ。」
そう言ってミトラはすっとベッドから離れた。
「さあ、仕事の話をしましょうか。」
ミューはクッションをミトラに投げつけた。