お茶会と新しい友人③
フェルディアムがふと思い出したかのように顔を上げた。
「では先ほど仰っていのは、王が偽物だから逃げろ、ということなのですか?」
チェルシアンナは大きく頷く。
「ええ。あの人は恐ろしい。色が、ないのよ、何も。黒いとか澱んでいるとかそういうのではないの。色が全くない。でもダンとは違う何かがいることはわかるわ。本当に恐ろしいの!あなたには今でも彼を預けるという重責を負わせているのにこれ以上辛い思いをさせたくないの!」
ミューは心配そうにチェルシアンナに近寄り手を握った。チェルシアンナは目だけで感謝を伝える。
「ミューラさんに出会って、もう絶対にあなたしかいないと思ったの。あなたは大国リンドアークの方だし王家にも繋がりがある。もしフェルディアム達を連れて逃げてくれたらと思ったら、つい焦ってしまって・・・」
彼女はフェルディアムに向き合って頭を下げる。
「フェルディごめんなさい、勝手ばかり言って。でもミューラさんは素敵な女性よ。だから・・・」
「姉様。落ち着いてください。もう話はわかりましたから。でもだからと言ってこのままただ逃げる訳にはいかない。彼も、それは望まないのでは?」
フェルディアム達が誰かここにいない男性のことを話しているのはわかっていたが、それ以上話が見えずミューは困惑する。
「あの、差し支えなければ、『彼』とは誰なのか教えていただけませんか?」
チェルシアンナがゆっくりとミューの方を向いた。
「彼とは、前王のご子息、ダリアライト王子のことです。」
「ええ!?」
王子が従兄弟の家に匿われている?そういえば王子の話題はこれまで全く考慮されていなかった。ミューは驚いた顔のまま気になったことを尋ねた。
「なぜ今フェルディアム様の所にいらっしゃるのですか?」
彼女は再び顔を伏せた。
「弟が入れ替わったと知った日、私がこっそり連れ出したんです。このままでは危ないと思って。でもあの王は全く気にしなかった。そんなこと本来ならあり得ないわ。こんな異常な事態を、なぜ誰も問題にしないのか、その事実も本当に恐ろしいの!」
確かにその通りだ、とミューは考え込む。王子が居なくなったことを問題にもしないなんておかし過ぎる。しかも王が偽物だとしたらそれに誰も気付かないなんてことがあるだろうか?自分ですらリンドアーク王から聞いていた印象との違いに違和感を覚えたのに、と。
そしてミューは決断した。
「チェルシー様、フェルディアム様。私と同盟誓約を結びませんか?」
にっこりと首を傾げながら微笑むミューに、二人がその日一番の驚いた顔を見せた。
しばらく唖然としていたが、最初に声を発したのはフェルディアムだった。
「同盟誓約は、星宮管理者様しかできない特殊な誓約ですよ?本来は国同士や大きな利害の動く組織同士が、相当な準備を重ねて大量の書類を用意して行うものです!それは流石に無理というものでしょう!」
「確かにそうですね。あれがある時は不機嫌極まりないものね・・・。とにかく、これは一国の重大な問題です。他国の私が本来聞いていい話ではないし、フェルディアム様の仰るようにただ逃げて解決とはならないでしょう。だからこそ、私とお義兄様と皆様で同盟誓約を結び、この問題に立ち向かっていきませんか?」
ミューの言葉は二人の心に響くものがあったようで、しばらく二人で顔を見合わせていたが、チェルシアンナがすっと立ち上がった。その瞳にはもう恐れは見えなかった。
「ミューラさん、ぜひそうさせていただきたいわ。このままこの国をあの偽物に渡すわけにはいかない。フェルディアム、あなたも私を信じてついてきてくれるわね?」
フェルディアムもチェルシアンナの決意に突き動かされ、立ち上がった。
「はい、姉様。リンドアーク王に繋がりがある方と誓約ができるとは、これほどの心強い縁は無いでしょう。ぜひよろしくお願いします!」
ミューは無言で頷き、腕にあるバングルを握りしめた。