お茶会と新しい友人②
「チェルシー姉様、それはいったいどういう意味ですか!?」
フェルディアムが気色ばんでチェルシアンナに迫る。テーブルに身体が当たり、カップからお茶がこぼれた。
「・・・不安なの。このままでは絶対に何か起こるわ。恐ろしい何かが起こる前に、あなたとあの子だけでも・・・!」
チェルシアンナは手に持っていた美しいレースのハンカチで顔を覆った。ミューはどうしたらいいかわからず、席を立ち彼女の側に寄り添った。肩に手を触れ、チェルシアンナ様?と声をかける。
「ごめんなさい、ミューリエラさん。取り乱してしまって・・・お恥ずかしいわ。あなたの前では自分を隠していられなかったの。ねえ、ミューラさんと私も呼んでいいかしら?あなたとお友達になりたいの!」
ミューは少ししゃがみながら横から彼女の小さな泣き顔を見て、ふわっと花が開くように微笑んだ。
「もちろんですわ、チェルシアンナ様!私はあなたが大好きですもの!」
なぜかチェルシアンナだけでなく少し怒っていたはずのフェルディアムまで毒気を抜かれたようにポカンとしていた。
「嬉しいわ!ぜひチェルシーと呼んでね。―――ねえお部屋に一緒に来てくださる?ここでは言えない話もあるの。フェルディも・・・きちんと話をしておきたいから。」
チェルシアンナは少し落ち着きを取り戻し、提案する。フェルディアムはしかし!と再び顔を顰める。
「大丈夫。この方は・・・お母様と同じ色なの。私はお母様とミューラさん以外こんな綺麗な色を見たことがないわ。信頼できる方なの!お願いフェルディアム!話だけでも一緒にさせて!」
チェルシアンナの必死さにフェルディアムも渋々頷き、「チェルシー姉様がそこまで言うなら」と、彼女の私室に移動することになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
チェルシアンナの部屋は二階にあり、大きな窓が二つ、日が少し傾き始めた空を映していた。美しい調度品の数々は、決して華美ではないが、質の良さとインテリア全体の統一感が素晴らしく、ミューはつい「素晴らしいお部屋だわ・・・」と声に出してしまいチェルシアンナに笑われてしまった。
部屋にあったふかふかのソファーに腰掛けて彼女を見ると、覚悟を決めたかのように話し始めた。
「フェルディ、この部屋に『振動』をかけてもらえるかしら?」
フェルディアムが訝しげに「かなり内密の話ですか?」と問う。
チェルシアンナが無言で頷くと、フェルディアムはため息をついてから壁に手を当てた。どうやら壁を振動させ、特殊な周波数の音を出して外に声が漏れにくくするものらしい。
「ありがとう。フェルディアム、そしてミューラさん。今の私の弟は・・・もう私の知る弟ではないわ。」
衝撃的な発言に、二人はびっくりして黙り込んだ。
チェルシアンナは悲しそうにふっと微笑むと続ける。
「私の知っている弟は―――ダンは愚かだけれど私には本当に優しい子だったの。」
ハンカチをギュッと握りしめている。
「お兄様、前王はとても頭の良い方だった。家族の誰もが王位を継ぐのは当然だと思っていたし、ダンもそうだった。お父様は厳しい方だったから、奔放なダンには星を、王家としての星すら認めないと言って彼はずっと七星だったけれど、彼なりにそれも仕方ないと受け入れてやってきたわ。」
彼女は涙を堪えながら下を向いた。
「そしてあの日、兄が亡くなり、ダンが久しぶりに城に戻ってきたの。でも彼は変な従者たちを引き連れ、態度も横柄になっていた。それでもまだ私には優しかったから、彼を少しでも諌めていかなければと、それが私の役目だと思っていたの。あの日までは。」
チェルシアンナはここで一旦沈黙する。二人は固唾を呑んで見守っている。
「・・・八星会議から帰ってきた日。彼はなぜか取り乱していた。なぜ効果がなくなったんだ!?と言って城で騒いでいたようなの。たまたまそこに居合わせた私の知人から、異様だったと話を聞いたわ。だから翌日ダンに会いに久々に城に出向いた。そしたら、彼は・・・別人だった。」
「え?別人というのはどういうことですか?」
フェルディアムが驚いて詰め寄る。
「言葉通りの意味よ。顔形が変わった訳ではないし、私以外は気づかなかったかもしれない。でもあれはダンではないわ。彼の記憶も所作も全て持った、全くの別人なの。」
「そんな・・・」
フェルディアムが愕然として頭を抱えた。
ミューは気になって尋ねる。
「それは、性格が全く別人になったということではないのですか?」
チェルシアンナは苦しそうな表情で首を横に振った。
「いいえ。私はね、人の魂の色が見えるの。」
「え?」
彼女は握っていたハンカチをそっと膝の上に置いた。
「幼い頃からなの。天力が弱かった代わりに、特殊な目が星から贈られたんだと思うわ。・・・だからわかるの、彼は、今のゾルダーク王は、私の弟ダンゲリオンではない。」
チェルシアンナは目を上げ、強い視線でミューの顔を見据え断言した。その場はしばらく誰も、口を開くことができなかった。