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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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ゾルダーク王

 ミューが今見上げているのは頑丈そうに積み上げられた石の門だ。見上げて首が痛くなりそう・・・と思いながらもついついその迫力に目を奪われ眺めてしまう。


 高い塀の上にも下にも、かっちりとした軍服姿の兵が厳しい目で見張りをしているのが見える。


 跳ね上げ式になっている大きな門の手前の橋は、今はほぼ下ろされたままになっており、入り口は関所にあるようなピリピリとした何かが出入りを制限しているようだった。



 夜会への招待状をアレイディアが門番の一人に手渡すと、空気が心地良いものに変わり、笑顔で中に通された。他の招待客もゾロゾロと入城しており、華やかな装いの女性達にミューは心踊らされていく。


「皆さんとてもお綺麗ね・・・。」


 ミューがうっとりとそう呟くと、アレイディアがスッとミューの方に顔を向け、優しい笑顔で


「君の方がずっと美しい。」


 と小声で囁いた。


 ミューは組んでいるアレイディアの腕を小さく抓り、もう、と頬を膨らませた。


 プッと吹き出すように笑うアレイディアはすぐに前を向き、貴族の子息の顔になっていた。




 城内に入ると人混みからは流れを外され、別のルートから大広間に向かうこととなった。六星ではあるが大国リンドアークからの賓客ということで、扱いも他の貴族達とは異なるのだろう。二人は王宮侍女に付き添われ、大広間横の控室に案内されることとなった。



 控室には他に誰も居らず安心したが、かと言ってこの場で余計なことを話すわけにもいかず、ミューはアレイディアから離れ、豪華な金糸銀糸の刺繍が美しいソファーに腰掛けた。



 しばらくすると力強いノックの音が響く。


「はい、どうぞ?」

アレイディアが声を掛けた。


 従者と思われる男性二人が恭しく両開きのドアを開けると、その背後から細身でスラっと背の高い、金髪の男性がゆっくり入ってきた。その顔を見てミュー達は一瞬動きを止め、素早く立ち上がりこの国での最敬礼の姿勢を取る。


 そこにいたのは、ゾルダークの現王、ダンゲリオン・ゾルダークその人だった。



「突然のことで驚いただろう。これは非公式の来訪だ。楽にしてくれて構わん。」


 王のこの言葉に二人は顔をゆっくりと上げた。鋭く理知的な切長の青い瞳、三十代半ばの落ち着きが感じられる表情を見て、ミューは内心不思議に思う。リンドアーク王から聞いていた印象では、もう少し短絡的であまり知性を感じられない人となりだった。しかし目の前のこの王はその印象を大きく覆している。


 ゾルダーク王は従者達を退がらせ、二人に座るよう促し、自らもソファーに腰掛ける。



(一体これはどういうことだ?なぜここに王が・・・?)

アレイディアは困惑していたが、努めて冷静を装った。



「ゾルダーク国王陛下、私はアレイディア・コーラル、こちらは義妹のミューリエラ・コーラルにございまず。この度のご即位を心よりお祝い申し上げます。」


 王はアレイディアの言葉に鷹揚に頷くと、手を挙げてそれ以上の儀礼的な言葉を止めた。


「そこまででよい。それよりも先日、八星会議にリンドアーク国の王が来ていたそうだが、残念ながら会うことが叶わなかった。ぜひ一度ゆっくりとお会いしたいとお伝えしてくれ。君はリンドアーク王の甥だと聞いているが。」


 チラッとアレイディアの方に視線を向ける。


「はい、私の母がリンドアーク国王の姉でございます、陛下。」


 そしてゾルダーク王は黙って小さく頷き、ミューの方にゆっくりと目を向ける。


「君は妹君か・・・これは美しい。今日の夜会でも一二を争う華となるだろう。」


 なんの感情も込められていない声だと感じたが、目を合わせた途端、ミューはその視線に射すくめられた。


(何、この視線・・・)


 囚われてしまうような、甘美な罠が待ち構えているような視線に戸惑い、目を伏せた。


「陛下にそのような言葉をかけていただけるとは・・・」


 王はミューを見て柔らかく微笑む。優しい表情であるはずなのに、ミューはその笑顔の裏に潜む何かに心の奥底を覗かれたような感覚を覚えた。



「アレイディア殿は良い妹を得たな。さてそれではこれで失礼する。今日は夜会を楽しんでいきなさい。」


 ミューと再び視線を合わせ、その後アレイディアに顔を向けた。


「また会うこともあるだろう。」

そう言って王は素早く部屋を出ていった。




「ミューラ?どうした?」


 アレイディアがミューの異変に気づく。


「・・・わからない、でもあの人は何か怖い気がして・・・」


 ミューの冷えた手をアレイディアがゆっくりと両手で包んだ。


「冷えている。本当にどうしたんだ?ゾルダーク王が何かしたのか?」


 心配そうにミューの顔を覗き込むアレイディアに、なんとか笑顔を浮かべてなんでもない、大丈夫と口にする。



(とにかく、王とは今後二人では会わないように気をつけよう。)


 ミューは密かに自分に誓いを立てていた。


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