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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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過去との決別②

 それは俺達が二十歳になった頃だった。それまでずっとミューと学び、遊び、時には小さな喧嘩もしたりして、普通の友情を育んでいた。


 そして気がついた時には俺は、もうミューのことを女性として好きになっていた。それでも彼女の気持ちを知るのが怖くて、それ以上の行動は何も起こすことができなかった。


 そこからしばらく俺は管理者としての力を磨き、彼女は自分の力がどういうものなのか向き合って調べていた。



 ある日たまたま体調がすこぶる悪そうな人にミューと出会した時、その人が持っていた杖のようなものにミューが興味を示した。どうやらあの黒い何かが溶け込んでいる物だったらしい。


 そっとその杖にミューが触れるとなぜか少し光を放ち、色合いが変わったように見えた。


『ミトラ、これ、私、消せたかも!』


 初めて自分があの恐ろしい力を浄化できることに気づき、彼女は大喜びだった。


 それからしばらくは近隣の同じようなものをミューと共に浄化して回り、俺は彼女の生きる道が見つかったと、単純に喜んでいた。


 

 さらにそこから数年は、ミューと共に他の国にも旅に出て、浄化を進めていく毎日が続いた。ミューとの旅は楽しくて、彼女の側にいられるのが嬉しくて、ミューの抱えている闇に全く気がついていなかった。



 それを思い知らされたのが、あの事件だ。



 ミューとの旅の最中、とある街でかなり酷い状態になった男性が寝込んでいるという噂を耳にした。原因不明で地力が効かず、長い間伏せっているとのことだった。


 ミューと共にその男性に会いにいくと、突然その男が近くにあったナイフを持って暴れ出し、不意を突かれた見張りを突き飛ばして外に飛び出して行ってしまった。



 そしてそこから恐ろしい事態に発展する。


 男性がナイフを持ったまま、その街の大きな広場の塔の上に登り、自分で自分を傷付け、その血を辺りにばら撒いたのだ。その血は黒く光り、多くの人の上に降り注いだ。


 そして、その黒い血を少しでも被った者は全て、その場に倒れていった。



 塔の上の男は叫んだ。


『ノロイの子よ、お前はこの星に存在しないノロイなるものをもたらした。お前が持ってきたものはこれほどまでの力がある!素晴らしい力だ!お前が生き続ける限りこの力は生き続け、この星を蝕んでいくのだ!!』と。そして男は、死んだ。


 おそらく、アミル様の『予言』と似たような力を持っている男だったのだろう。真実を暴くような特殊な力により、ミューの心に抱えきれないほどの重い事実を突き刺したのだ。



 彼女は見たこともないほど青ざめていた。



 そして取り乱し始めた。



 私のせいでみんなが苦しんでいるの?私があの良くないものを持ってきたの?この星には無いとんでもないものを、自分のせいで・・・と。



 そして、彼女は叫んでしまった。



『嫌だ嫌だいやだ!!もう死にたい!私が居なくなれば消えるんなら早く年老いて死んでしまいたい!!ううん、今すぐに!!私なんていなければよかったのに!!』と―――



 俺は、彼女のその言葉を止めることが出来なかった。



 そして二人で気づいてしまった。この願いは二度と叶うことはない。つまり、彼女はもう、老いて死ぬことが出来なくなったのだ。


 その事実に彼女は慄いた。



 俺は―――


 『駄目よ!ミトラはだめ!絶対にだめ!!』


 彼女は俺の言わんとしていることを察する。そして離れようとした。


『頼む、俺もミューの側にいさせてくれ!』


『だめだめだめ!!ミトラは・・・』


『早く言うんだ!ミューと離れるなんて考えられないんだ、俺も君と共に永遠の時を生きるよ!だから頼む、頼むから、願ってくれ!!』


『だめだよ絶対に、ミトラには私を忘れて、ミトラだけの人生を歩んで欲しいの!私以外の誰かと幸せに歳を取っていくそんなありきたりの人生を歩んで・・欲し・・・い・・・』


 俺は喜んでしまった。心の底から。もうその願いは叶わない。優しい彼女なら絶対にそう願うと思っていたのだ。俺はそれがわかっていて、彼女に言わせてしまった。彼女がどれほど苦しむか、知りもしないで。



 ミューは、俺の人生を自分に縛り付けてしまったことを、心から悔いた。



 ―――そして俺の前から姿を消した。



 ゾルダークで再び出会うその日まで。何年も。何年も。


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