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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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過去との決別①

 ミトラは流星宮でいつも通りの仕事に明け暮れている。各国の星宮からは様々な報告書や陳情書が日々送られてくるため、今は数名の星守を部下として流星宮に配置し、事務仕事をなんとかこなしている。


 そんな最中、ミューが「ゾルダークを直接調べる!」と言い出した。九星の王を呼び出して直に会い、その甥とやらの義妹に扮し、挙句の果てにはそいつに迫られた上、めいいっぱいの力を奮ってしまったと言って嘆く。


(全く、目が離せない。)


 ミトラはそんな彼女がいつも使っているバングルを調整すると言ってこっそり改造し、盗み聞きのできる犯罪まがいの代物ができてしまった。


(仕方ない。フラフラしているミューが悪い!)


 今日も仕事が終わって彼女のバングルから聞こえる様子を確認する。


  『・・・きれいだ。』


 ミトラは眉を顰める。アレイディア・・あいつはまた・・・


 バングルの音声を切り、イライラしながら自室に戻る。まだ一日も経っていないと言うのに、彼女に、会いたい。




 ー ー ー ー ー




 ―――三百年以上前。ミューとは草原で出会った。満点の星がこぼれ落ちそうなほど煌めいていたあの夜。流星が数えきれないほど降り注いだあの夜。



 少女の名前は『ミユウ』というのだと後で知った。



 星と生きるために前管理者であるアミル様に育てられた俺は、何度も聞かされてきたアミル様の予言に沿って行動し、草原で彼女と出会った。


 だが彼女は言葉がわからず、互いに困惑していた。そのニ年前に失踪してしまったアミル様に頼ることもできず、ただ彼女と途方に暮れる日々が続いた。


 それでもなんとか日々を暮らし、星守の里の大人達に助けてもらいながら、二人で言葉を教え合い生き抜いた。



 『ミユウ』は俺には呼びにくかったので、ミューと呼んだ。



 言葉が通じるようになり、友達と話せるようになって嬉しいと浮かれていた時、事件が起きた。



 あの流星の降り注いだ夜、里にたくさんの黒いものが落ちていた。しばらくは皆気味悪がって近寄らなかったが、ある日里の子どもがそれが付着した石を触ってしまい、病に罹った。それはひどい状態で、みんなで地力を尽くしたけれど、結局回復することはなかった。


 そんな話がこの里だけでなく他の街や村でも起こるようになり、人々はその恐ろしいものに怯える日々が続いていた。


 落ちてきた時は黒かった「それ」は、気がつけば落ちた場所に溶け込んでどこにあるのかわからなくなり、それに触れた者、不思議な力だと欲望のままに使おうとした者は全員非業の死を遂げた。落ちた場所が畑だったところは作物が軒並み枯れてしまい、飢饉も起きた。



 そしてそんな苦しみの時代の中、ミューは少しずつ会話ができるようになり、ポツポツと自分の生い立ちについて語るようになった。



 それは衝撃的なものだった。



 彼女はおそらくここではない宇宙そら)のとある星で、両親がいない子どもとして生まれ育った。ただここは記憶が曖昧らしく、もしかしたら一緒に居た時もあったのかも、と言っていた。


 向こうでの最後の一、二年ほどは、叔母だと言う『アミ』さんという女性と共に質素な暮らしをしていたが、ある時誰かに誘拐されてしまったという。それはとても恐ろしい人達で、なぜかアミさんのことも彼女のこともよく知っていたそうだ。



 そして彼らはこう言った。


「お前は強運を持っている。考えられないくらいの強運だ。だがそれを一人で使うのは勿体無い。自分達にも分け与えろ」と。


 更にこう続けた。


「この星にはここにしかない“呪い”という力があるそうだ。見えないが強力で、自分達の力とこの呪いの力を掛け合わせ、お前の強運を全部使って我らの悲願を達成する!」


 そう言って、恐ろしい形相をした男女二人組が彼女をどこかに閉じ込めた。何か“呪い”なるものを自分達の力と合成して成就させるためだと言って、どこだかわからない暗い場所で、毎日毎日自分がまるで神様になったかのように崇められたり汚い言葉を吐かれたり、変な力を感じたりしたそうだ。


 それだけ聞いても反吐が出そうなほど腹が立つが、最後にもっとおぞましい事実がミューの耳に入った。



 それは、彼女の強運は全て呪いの成就のためにつぎ込んでしまったこと。その代わり彼女には、星を破壊してもおかしくないほどの尋常ではない力をその小さな身体に溜め込んだこと。そしてその力のせいで彼女は―――



 この呪いを解かない限り、彼女の心からの願いは永久に叶わない―――願いを口にした時点で確実にそれが叶わない現実が起こる―――


 ということを知ったそうだ。


 それを聞いても当時はよくわからなかった。俺も彼女も。願いなんて叶わないことがあって当然だ。誰しもが願いを口にしながらも、叶うとは限らないことを知っている。


 だがなぜかそれは後からじわじわと恐ろしさを感じさせる話だった。



 呪いというものと彼らの力を彼女の中に全て注ぎ込んだ二人は、最後だと言ってとある儀式を始めたと言う。


 「これであの星も終わりだ!お前が破壊するのだ!」と男性は叫び、女性の方はずっとニヤニヤしていた。だがその儀式の途中で突然アミさんが飛び込んできた。


 そしてその瞬間、そこになぜか雷のようなものが落ちた―――




 ミューが覚えているのはここまで。そして気がついた時にはあの草原にいたらしい。


『でも考えてみたらおかしいんだよね。強運を持っているんだったら誘拐なんてされなかったはずでしょ?』


 と、彼女は何でもないように言った。俺は何も言えなかった。



 そして大人になった俺達は、ある事件によって道を分つことになった。


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