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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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夢の続き

 ミューはぼーっとする頭を冷たい水で顔を洗って覚醒させる。昨夜の疲れがまだ残っている。


 あの後本当にすぐにミトラが来てくれたことで、ミューは心の落ち着きを取り戻した。どうやらミトラはいつも使っているバングルに転送陣を仕込んでいたらしく、数分後には支度を整えたミトラがその場に現れた。ついでにそこに様々な仕掛けを施していたようで、アレイディアとのあれやこれやは全て筒抜けだったと判明し、ミューは青くなった。


「ミュー。だから気をつけろって言ったよね?」


と、溢れんばかりの色気で怒られたけれど、結局ミトラは最後まで優しく、ゆっくりとミューの話を聞いてくれた。アレイディアの件は隙があり過ぎると責めても、それ以外はただひたすらミューの言葉を受け入れてくれた。


(ミトラが来てくれて良かった。夢じゃなくて、本当に良かった・・・)


 ほっとした気持ちのままミトラが取ってくれた別の部屋で就寝し、朝を迎えて今に至る。


 今朝はこの後軽く朝食を食べてからミトラ、アレイディアと共に話し合いをすることになっている。憂鬱な気分も、ミトラがいれば少し和らぐような気がした。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 準備をしてミトラの部屋に行くと、まだ早かったようでミトラだけがゆったりとした部屋着で出迎えてくれた。


 部屋の中に入ると彼がいつも使っている香りがふんわりと届いた。流星宮にあるミューが大好きな花の香り。そういえばだいぶ前に里の子供たちと一緒にその花の香りを香水にしてミトラに送ったんだっけと思い出す。


「ねえミトラ、この香りって・・・」


 気がついた時にはミューはミトラの香りに包まれていた。ミトラの大きな腕に、胸に頬が当たる。


「ミっ、ミトラ!?」


 予想外の出来事に動揺して声が上ずる。


「アレイディアと抱きしめ合ってたんでしょ?」

「え!?抱きしめ合ってませんしてませんほんと!!」


 ミューが焦ってミトラの腕の中でもがく。


「嘘つき。」

「ううう嘘じゃないです!確かにちょっと抱きしめられたかも・・・でも!抱きしめ「合って」はいません!」

「何そんな必死になってるの?やましい気持ちでもあった?」


 ふふと小さく笑いながら、ミトラが容赦なく色気を振り撒く。


「無い、無いです!ミトラちょっと苦しいよ、離して!」

「だーめ。ミューは俺が一回もしたことがないことをアレイディアには簡単に許しちゃうんだなー。あーあ、俺との歴史の方が長いのになあ。」


 ふざけた調子の言葉なのに、抱きしめられた胸から響くミトラの声はいつもより低く、甘く、心を揺さぶってくる。


「ううう、それは大変心苦しく思っているようないないような・・・」

「何それ、いるのいないのどっち?」


 胸の中からミトラの顔を見上げると、悪戯っぽい顔に似合わない、切なくて愛おしいと必死で訴えてくる瞳が、ミューを捕らえた。


「私は・・・」

「何も言わなくていい。」

「ミトラ・・・?」


 ミトラがもう一度柔らかく、優しくミューの身体を包み込み、耳元で囁いた。


「ミュー」


 心が、震える。


「家族のようでいい。何も願いを口にしなくていい。」


 お願い何も言わないでと小さく祈る。


「でももう、俺の気持ちも限界なんだ。」


 知ってしまったら、願ってしまう。


「だからこれからはもう、遠慮はしない。」


 ミトラの声が、今までで一番優しく、そして残酷に聞こえた。


「ただこうしているだけでいい。それだけでいいから、もっと・・・ミューに触れさせてくれ。」




 ほんの一瞬だったのか、それとも何十分も経ったのかわからない。ただひたすら優しくミトラに抱きしめられる。互いの切ない気持ちが苦しくて、でもとても心地良くて、ミューが少しだけ身を寄せると、ミトラはミューの背中に指をそっと滑らせた―――


 ミューが真っ赤になって腕の中で悶えた時、突然ノックの音が部屋に響き渡った。ビクッとして二人が慌てて離れる。



 ミトラは無表情でドアに向かって歩いていき、ミューは顔を赤くしたまま窓の方に逃げた。


(これからは遠慮しないって、どういう意味?いや、困る!遠慮してくれないと困るよ!)



 ミューは心の置き場を無くし、ひたすら外で歩く人達を目で追っていった。


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