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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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ゾルダークへ/二日目③

 アレイディアと共にマーレンの小さな街の一つであるビレナルの一番賑やかな通りを歩いて、ランディエルお勧めの店を目指す。この辺りでは高級店ではあるが、敷居は高くないから入りやすいわよと彼女は言っていたらしい。


「こうしてミューラと外を歩くのは初めてだな。」

貴族モードの彼は優しい兄の姿を見せる。今日はゆったりとエスコートもされている。


「そうねお義兄様。どんなお店か今から楽しみだわ。」

ミューも義妹としてにっこりと笑みを返す。


 

 店に着くとミューは「素敵ね・・・」と目を輝かせた。


 建物の前には小さくもしっかりと管理された対称的につくられた庭園が広がっており、真ん中に小さな噴水も置かれている。リンドアーク国ではこの時期見られない花が石畳の道の両側に植えられており、その先に下から優しい光で照らされた白い壁の店構えが見えた。庭園の中にある石畳の道を進んで店に入ると、丁寧に席まで案内された。



「個室?」

「ああ、食事をしながら内密に話したいこともあってね。」

ウエイターを退がらせた後、アレイディアはそうミューに告げた。


 そこからしばらくはランディエルが強く勧めてくれた現地の野菜や肉を使った料理を堪能し、アレイディアと何気ない会話を楽しんだ。



 今のところゾルダークの件で新しい情報は入ってきていないため、特に今後の方針は変わらず。アレイディアが気になる貴族達にミューを紹介し、彼女との縁が繋いできた新しい事業が好調なこと、出資者や事業への協力者を求めていることなどを話す予定だ。


「先日も少し話をしたが、ゾルダークが今最も欲しいものを取り扱っていることにしたい。おそらく一番は関所の突破に関するものだろう。国境そのものは星宮管理者様が手を入れているだけあって、そう簡単に突破できるものではない。と考えると、先ほどのような関所が、最初は一番狙い目だ。」


 食後のお茶をゆっくりと味わいながらアレイディアが話を進める。


「今日通ってきた関所を見ると、『電力』と『分析』の両方が使われていると思う。ここの関所はリンドアークではなくマーレン担当だからはっきりはわからないが、電力のあの感覚は俺も使っているからなんとなくわかる。」

ミューは頷いた。

「そうね。私もその二つが機能していると思う。そうするとどちらかを遮断するか誤魔化せればあっさり通れそうね。」

「そう簡単にはいかないだろうが、ここは大きく出てみるか。」


 アレイディアが身を乗り出し、両肘をテーブルについて顎の前に手を組んだ。見覚えのあるその姿を、さすが親戚だわと思いながら見ていた。


「そんなに見つめられると照れるな。」

アレイディアが揶揄うように言う。視線が少し熱い。


「違うわ。あなたの叔父様の動きと似てたから面白かっただけ。」

ミューがちょっと嫌そうな表情で答えると、アレイディアが苦笑した。


「話を戻すよ。もし俺たちが『電力』を回避できるものを持っているとしたらどうかな?」


 うーんと首を捻りミューが答える。


「かなり難しいと思うわ。『電力』が触れた部分を遮断する物質はあるけれど、高価だしたくさん揃えることが難しい。そもそもあれは内部に電力を発生させる特殊な天力を使っていると思う。だったら関所の『分析』をうまくやり過ごす方法の方が信じてもらいやすいかもしれないわ。」


 アレイディアは身を乗り出す。


「どうやって?」


 ミューはお茶を一口飲み込んでから話を続けた。


「そうね、これは『分析』持ちはよく知っていることなんだけれど、『分析』途中で大量の情報が流れ込むと、かなりの確率で分析放棄が起こるの。一度放棄してしまうと次の『分析』まで何も出来ないし、下手したら意識を失う。それが関所のように人ではなく何かしらの装置が代わりに行なっているとしたら・・・ねえ。」


 アレイディアが目を丸くする。


「おいおい、それは本当にまずい話じゃないのか?リンドアークの関所にも同じことが言えるぞ!」

「落ち着いてお義兄様。そんな簡単に大量の情報を流すことは本来不可能よ。それに大量に情報を流したからと言ってすぐ門を通れるかどうかは実際にやってみないとわからない。」


 ミューは人差し指を唇の前に立て、小さな声で言った。


「だからあくまでも仮の話として、大量の記録ができる天力装置の開発が進んでいること、分析放棄が起きるほどそこに入れた情報を一気に引き出すことができると仄めかすのはどうかしら?関係ない人は興味もないだろうし、逆に関所を突破したいと考えている人にとっては是非とも試したい!と思うものじゃない?」


 二人でニヤッと笑い合う。


「いいね、悪巧みをする仲良し兄妹の誕生だな。」

「ふふ、そうね、ずっとそうでありたいわ。」


 ミューが目をつむり、音を立てずに残ったお茶を全て飲み込むと、アレイディアが少し切なそうな顔で参ったね、と呟いていた。


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