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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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ゾルダークへ/一日目③

 強盗団に襲われた森を抜け、一日目の目的地である街道沿いの街に辿り着く。


 コリノという名前のこの街は、リンドアーク国内の西端、国境線手前にある街で、友好的な隣国マーレンに繋がる道でもある。この国を二日かけて抜けるとゾルダーク国に入ることになるので、ここでは必要な準備を整えたり、最終的な確認を行ったりしながら進んでいくこととなる。


 コリノには大きな街道に沿って何軒も風情のある宿や市場、雑多な店が並び、隣国との交易が盛んであることを感じさせる賑やかさがあった。



 ミューはアレイディアと共に車を降りると、この近辺で一番大きく歴史のありそうな宿に入った。見上げると石造りの重厚な外観に黄色や白などの明るく夏らしい花々が窓を彩っており、一泊だけでもこんな素敵な宿に泊まれるなんてと少し気持ちが華やいだ。



 各々の部屋に案内された後、ミューはバングルを通してミトラと連絡を取った。


「ミトラ、無事にコリノに着いたわ。」

「ミュー、長旅お疲れ様です。何か途中でありましたか?」

「大きな組織の強盗団がいたけれど、騎士達とアレイディアで制圧したわ。」

「そうですか。まあ合格点ですね。」

「そうね。『重力』は今後浄化の際に役立つと思う。押さえつけてもらえるととても楽だし。」

「あなたが押さえつけられないかと心配ですが?」

「私に効かないことくらい、わかってるでしょ?」


 ミトラのふふと向こうで笑っている雰囲気が伝わってくる。


「そういえばゾルダークの星宮ですが、ゾルダークの王都から移転させました。」

「え?どうして?」


 ミューは不思議そうに驚きの声をあげる。


「ゾルダークの王は不正に星を取得しています。八番目の星の取得の際、星宮を通して私に話が来なければおかしいのにそれが無かった。それにも関わらずなぜか現王が八星を持っていることが当然のこととして罷り通っている。何か裏があるのでしょうが、今星宮が近くにあると何かしらの被害を受けそうなので、一旦星宮ごと隣の村に移転しました。まずは貴族としての調査が先なのですぐにミュー達に影響がある話ではありませんが、念のため。」


 ミトラは淡々と事情を説明していく。ミューがわかったと答え通信を切ろうとした時、ミトラからそれまでとは異なる調子の声が聞こえた。


「ミュー。」

「なあにミトラ。」


 暫しの沈黙。


「アレイディアに口説かれてるね。」

「ん!?」


 もう一度沈黙が訪れる。


「気をつけて。あの男は普段、熱血好青年もしくは優しい顔の貴族の末っ子として振る舞っているが、そんなんじゃあの仕事は出来ない、もうわかってるとは思うけどね。気持ちと状況の逃げ場をなくすプロに追い詰められて、今どんな気持ち?」


「・・・ミトラは本当に意地悪だよね。」


 プッと吹き出すような声が聞こえてミューは顔を顰める。


「諸々の仕返し。まあ、気をつけて。無茶をしないように。」


 そう言ってミトラからの通信は途絶えた。ミューはバングルを手首から外しベッド横のテーブルに置いた。



 ミトラは面白がっているようだったけれど、本当はどんな気持ちでいるのだろうとふと考えたが、今はまだその時ではないと、ミューは頭を振って忘れることにした。



 手と顔を洗って窓の外の景色を見ると、街の喧騒が耳に入ってくる。気分転換に外に出よう、と服を歩きやすいものに替えた。


 ドアを開け廊下に出ると、騎士の一人で若い女性のライラメアが立っていた。


「ライラメア、もしかして私の部屋の護衛に?」

「はい、陛下から絶対にミューリエラ様から目を離さず守れと厳命されております。」

ライラメアは顔色ひとつ変えずにスラスラと返答する。


「そう、では一緒に行きましょう?」

悪戯っぽく微笑むと、ライラメアの手を取って歩き出した。


「ミューリエラ様?ど、どちらに行かれるのですか?」

「街に繰り出すの。大丈夫!私これでも強いから。」

「しかし・・・」


 満面の笑顔で押し通し、ライラメアと腕を組んで大通りに出た。暑さはリンドアーク王都ほどではなく、少し標高が高いのかなと考えながら心地よい風を感じつつ街を歩く。


 ライラメアとは少しずつ距離を詰めながら、「ライラ」「ミューラ様」と呼び合うまでに仲良くなった。小さな繋がりが、一つずつミューにかけがえのない思い出と喜びを紡いでいく。



「ライラ、今日は本当にありがとう。また機会があったら一緒に出かけましょう。」

「もちろんです、ミューラ様。」


 宿に帰る頃にはすっかり打ち解けた二人は、家族や友達、旅の思い出などたくさんの話をして、自室に戻った。


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