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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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ゾルダークへ/一日目②

 深い森林地帯に入り、ガタゴトと車が大きく揺れる頻度が増えてきた。


 ここは大きな野生動物やならず者達が出没する場合もあるため、注意が必要な場所だ。今回の旅はこうした場所も通過しつつ三日ほどの行程となるため、ミュー達が乗った車以外にレンネに乗った護衛が四名付いている。男性と女性が二人ずつ、全員リンドアーク王が直々に任命し派遣してくれた騎士で、大変優秀な者達だ。


 レンネは白く短い毛並みが美しい草食動物で、四つの長く逞しい脚とピンと立った大きな耳、細長く柔和な顔立ちの額には白く半透明の角が付いている。長く毛量の多い尻尾には特別な力があると言われているが詳細はわかっていない。見た目の優美さからは想像も出来ないほど丈夫で体力があり長く生きるため、平民から貴族まで幅広く移動や運搬に使われている。



「もう少し先に進むと街道沿いの街がある。そこで今日は一泊する予定だ。ミューラ、疲れてはいないか?」


 アレイディアの義理の兄らしい優しさにようやくミューが視線を戻し、頷いた。アレイディアが小さく微笑む。


 その瞬間、突然外から大きな声が響いた。


「止まれ!!止まらないと火矢を放つぞ!!」


 車が急停車し素早く窓の外を確認したアレイディアは、ここで待っていろと言い残し車の外に飛び出した。ミューは何も言わずあえて大人しく車の中で待つことにする。


(彼の実力を見せてもらいましょうか。)


 護衛の四人は流石の動きを見せ、剣とそれぞれの天力を活かして敵を制圧していく。一人、また一人と次々に屈強な男達が倒され、金属がぶつかり合う音や何かが倒れる音、うめき声が響く。


 ただ思ったよりも人数が多いため手間取っている様子だ。森の奥からワラワラと更に二十人ほどが手に持った武器で攻撃を仕掛けてくる。貴族は強い天力を持っていることが多いので、人海戦術で仕留めようということだろう。


 火矢は面倒なので、ミューは内側から弱い防御の呪文を放って火を消していく。騎士達は火矢の火がなぜか消えてしまうのを不思議に思いながら戦っているようだ。



 アレイディアの方は『重力』という特殊な天力を余すところなく活用し、男達を一気に地面に押さえつけていった。剣は一切使わず、時々『電力』で高電圧を流し気絶させているようだ。


(力の強さは叔父譲りね。しかもあれだけの人数を繊細な制御で押さえつけることができるのは悪くない。)


 ミューは冷静に状況を把握し、数分で制圧可能と判断した。火矢を持つものが居なくなったのを見計らって防御の呪文を解除し、気配を探知しそれ以上の敵がいないことを確認した後、怪我人が居ないかと気になって車の外に出る。


「ミューラ、外に出たらまだ危ない!」

「お義兄様、大丈夫よ。それより怪我をした方はいないかしら?」


 アレイディアと四人の騎士達は皆顔を見合わせながら頷いた。この状況下で全く怪我をしていないとは。リンドアーク王が相当手練れの騎士をつけてくれたのがわかり、ミューは柔らかく微笑んだ。


 騎士達は全員その笑顔を見てほぅ、と息を呑む。彼女の醸し出す美しさは、ずっと浸っていたくなるような逃げられない魅力を秘めている、とアレイディアは思う。


「ミューラ、車に戻ろう。」


 アレイディアの一言にそれそれが我を取り戻し、被害の確認や今後どうするかの話し合いが持たれた結果、強盗団をそのままにして先に進むことになった。彼らは当分動くことは出来ないほどにダメージを受けており、危険な野生動物が溢れるこの森では何かしら森からの制裁があるだろう、との判断だった。そして現実問題として日程を遅らせるのは得策ではない。



 車に戻るとアレイディアが仕切りで隔てられている馭者に指示を出し、車は再び動き出した。


「俺の力を見極めていたの?」


 ミューが落ち着いて座席に座ると、アレイディアが唐突に彼女に尋ねた。


「そうだとしたら?」

「俺は合格かな?」

「そうね、概ね良いのではないかしら。」

「そうか、嬉しいね。ところで。」


 雰囲気が変わりミューは身構える。


「あんな柔らかい笑顔を誰にでも向けるなんて、そんなにみんなを魅了したいの?ミューラ。」


 頬に伸びる手を左手で止める。その左手をそのままアレイディアに握られる。でも目はもう逸らさない。


「こんなのが到着するまで二日以上続くのかしら?」

「いや、この任務が終わるまでだ。覚悟してねと言ったはずだよ?」


 ミューは大きくため息をついて手を無理やり引き抜いた。


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