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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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小さな楽園

 白い石造りの廊下は片側に大きな窓がついており、外には青々とした木々や色とりどりの花があちこちに咲き誇っている様子が見える。暖かな日差しが廊下の内側にまで降り注ぎ、穏やかな時間が流れていく。


 ミトラはその景色に魅入られつつも、目的地に向け立ち止まることなく歩いていく。



 先ほどよりも一段明るい場所に着くと、そこには四方の廊下からくり抜かれた美しいアーチ、キラキラと光を反射している大きな噴水、その周りに植えられた明るい色の花々、整えられた美しい芝生が広がる中庭がある。


 噴水に沿うように敷かれた細い道には木製のベンチが置かれている。ふとそこに目をやると、見知った人物が寛いでいた。



 その人物はベンチの上にふかふかとした大きめのクッションを敷き、本を広げ、そこを占領するかのように仰向けで寝そべっている。頭には何やらピンク色のふわふわとした毛並みのものを被り、ご丁寧に枕まで持ち込んでいた。


 ミトラがため息を隠しもせず、


「ミュー。」


と声を掛けると、ピンク頭がもそもそと動いて、


「んー?」


と返事が返ってきた。が、それ以上動く気配はない。



 ミトラはつかつかとベンチに歩み寄ると、書類を持っていない方の手でサッと枕を引き抜いた。


「!」


 ピンクのモフモフ頭はなんとかその場に留まり、頬を膨らませご立腹の様子でその顔をミトラに向けた。

「なあに、まだ時間あるでしょ!枕を返して!」

口を尖らせて文句を言い、上半身を起こした状態で器用にミトラから枕を奪い返した。


「残念ながら時間は先ほど消失しました。九星会議が先に行われることになりましたので。」


 ミトラはミューから再び枕を奪い、一歩下がって冷静に状況を告げた。


「えー、今日は無いって朝は言ってたのに・・・。」


 がっくりと項垂れながらミューは諦め顔でクッションにうつ伏せになった。


「それよりもその頭のピンクはなんです?そんなものいつの間に・・・。」


 訝しげな顔でピンク色の被り物を見つめつつ、ミトラは手にしていた書類の束をミューに手渡した。


「里の子達がこんなの欲しいなって言ったら作ってくれたの!可愛いでしょ?」

とご機嫌な顔でミューは答える。首まですっぽり入る形のピンクのそれは、顔だけ出せて猫耳が付いている被り物だ。本人曰く、ナイトキャップらしい。


 ミトラは無表情のままピンクの耳をわしゃわしゃと触ると、ひとつため息をついてからそのナイトキャップを引っこ抜いた。


 サラサラとミューの髪が肩から背中に流れ落ちる。黒く艶のある黒髪は、光が当たると虹色に反射する。宝石のように小さな光を包む灰色の瞳がミトラを半目で見つめた。


「あ!もう。そんなに強引にしなくても行きますよー。ミトラの意地悪!」


 ミューはむくれ顔でクッションと本と受け取った書類を抱えると、すっと真顔になり、

「コウ、サナ。」

と強い声で呼び掛けた。


 伏し目がちのその瞳を長いまつ毛が多い隠し、黒髪がすうっと色を変えていく。ミトラよりも薄く白さのある銀色の髪が、彼女の横顔を覆い隠した。


 その瞬間、フワッと中庭に風が吹いたかと思うと何処からともなく二人の子どもが現れた。ミューもミトラも特に動じることもなく二人を見ている。一人は短い薄茶色の髪を持つ少年、もう一人は少年よりも少し大人びた印象の、十代前半といった様子の同じ髪色の少女だ。二人とも動きやすそうな柔らかい風合いの、白い服に身を包んでいる。


「お呼びでしょうか。」

「ここの片付けを。それからミトラと私の会議の支度を手伝ってもらえる?」

「承知いたしました。」


 少女の方が恭しく返事をすると、ミューからの指示を受けて二人の子ども達がテキパキと動き出す。ミトラはその様子を確認すると何も言わずに中庭を離れた。


 子ども達にベンチにあった雑多な荷物を預け、ミューはミトラから受け取った書類に目を落とす。その表情には先ほどのふざけた様子はかけらも残っていなかった。



 ミューと子供たちが中庭を出ていく。その小さな楽園に、噴水の心地良い水の音だけが残されていた。


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