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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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最初の事件/裏側

 カーテンの隙間から差し込む朝日はまだ弱い。だがそんな弱い光でも顔を直接照らせば目の慣れていないミューには十分眩しいもので、気がつけばすっかり目を覚ましていた。


 両手で一気にカーテンを開けると、窓からは城下の美しい街並みとその先に小高い丘や森が広がっているのが見えた。丘の先は街や村などは見えなかったが、細く黒い筋が立ち昇っているのだけが見えた。


「ん?火事かしら?」


 目を凝らして見るがよく見えない。視界をクリアに、視力を調整。己に呪文を唱える。


「あそこを走ってるのはアレイディア?煙の方に向かってる・・・?」


 通常の倍以上の視力に調整したミューは、アレイディアが丘の向こうに走っていく様子を目撃して首を傾げた。ただの火事であの彼が動くというのは考えにくい。何か他に異変があったのではないか。


「そうだ、カードを使えば・・・!」


 実は昨日アレイディアに渡したカードは、彼には見えないがいざという時の彼のお守りとして、常に必要な時に近くに現れるように設定してある。命の危機を感じた時や禁忌の力を発見した時にすぐにミューと繋がれるようにと考えて準備した。


「よし、移動しましょう!」


 急いで白いシャツとゆったりとしたベージュのパンツ姿に着替え、彼の持つカードの元へ自らを転送するために準備を始めた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 転送後、驚きの余りぽかんと口を開けているアレイディアにちょっとだけ笑ってしまったが、突然近くの兵士が暴れ出してしまったためそれ以上話ができずにいた。


(おっと、あの人はまずいわね。)


 剣を手に暴れ回っている兵士はまだ若い男性で、顔は少年のようにも見える。しかし今は目の焦点が合わず、青ざめた苦悩の表情は彼から若々しさを奪っていた。


 素早く近寄り手の甲に触れて浄化する。


 すると兵士は力を失い、その場に倒れ込んだ。


 気がつけばアレイディアが近くにいたが、どうやら予想外の出来事に頭がパンクしている様子だ。


 とりあえずここを離れてもらうため、少し距離のある川まで水汲みをお願いした。これでしばらく戻れないはず、彼も移動の間に冷静になるだろう。



 アレイディアが立ち去ってから急いで倒れている全員に浄化を掛けていく。


 あまり浄化の力を使っているところを彼に見られるわけにはいかない。万が一見られた時のために出来るだけ目立たないように浄化をかけていった。



 最後の一人、比較的症状が小さく見えた村人の女性をゆっくり立たせて木陰に連れて行く。その間に元気になった人々が他の村人を呼びにいってくれたので、日が高く暑くなる前に、全員が誰かに家や木陰に連れて行ってもらえたようだ。



 辺りを見回して安心してから目の前の女性に浄化をかける。


 女性には、「地力で『治癒』をかけますね。」と誤魔化しながら浄化していくと、アレイディアがバケツを持ち、何とも言えない表情で立っているのが横目に見えた。



「アレンさん、川の水を汲んできてくださったんですね!ありがとうございます!」


 一旦立ち上がってバケツを受け取り、女性の側に置いて再び浄化と治癒を続けた。


「落ち着いたら、話があります。」

アレイディアの硬い声が聞こえた。


(でしょうね・・・まあとりあえず溜池の浄化をしてからどう説明するか考えよう。)


 ミューは女性の方を向いたまま、わかりましたと返事をした。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 アレイディアと一旦別れてから一人でそっと溜池に向かった。バケツに入っている水はキラキラと日光を反射している。手を入れてみると冷たいだけでなく身近に感じる力ががそこにあることに気づいた。


「この水ってもしかして・・・」


 それはもう何年も前のこと。この辺りの山の頂上付近にある泉が汚染されていると聞きつけて現地に向かい、泉とその周辺をミトラと広く浄化したことを思い出す。


(あの時の泉がこの川の上流にあるのかも。)


 確信は無かったがどちらにしろこの後の溜池の浄化に役立つと考え、こぼさないように気をつけながらバケツを持って溜池に向かった。


 到着した場所は細い一本道の終わりにあり、鬱蒼とした雑木林に囲まれ、水は澱んでいる。ここは溜池と言いながらもほとんどその役目を果たしていないようだ。


 この水の底におそらく『アレ』がある。


 水の表面にそっと触れると、じんわりと、言い知れない黒い感情を呼び起こす、感じ慣れた感覚がそこにあった。水そのものなのかこの土壌なのか、それとも特定の物質なのかわからないが、それは確実に存在している。


(この川の水に活躍してもらわないとね。)


 ミューはバケツに入った川の水に強めの浄化をかける。元々浄化の効果が薄っすらとかかった水なので、効果が出やすいはずだ。


 浄化をかけた水は少しずつ発光が強まり、振動し始める。その水をゆっくりと溜池に流し込むと、水が触れた所から光が広がり、数分もしない内に溜池全体の澱みが消えていった。


 光が収まり、浄化が完了したことを確認して元の道を戻ると、なんとも言えない表情をしたアレイディアに出会した。



 真実を追求したいらしい彼をどう誤魔化そうか。



(うーん、とりあえず一度城に戻ってしまえばうやむやにできるかも・・・)


 その後の諸々な出来事でアレイディアが動揺している間に、ミューのなし崩し作戦はまんまと成功することになるのだった。


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