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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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最初の事件②

「あら、お呼びではなかった?」

ミューがキョトンとした顔でアレイディアに声を掛ける。アレイディアは口をあんぐりと開けたまま、ミューの顔を暫く凝視してしまった。


 すると突然、うわーっという大きな叫び声が辺りに響き渡る。我に返って声のした方に目を向けると、先ほどまで青い顔で座っていた兵士が自身の剣を振りかざし暴れていた。その目は虚ろで何の目的もなくただ振り回しているという姿に見えた。


 すぐに制圧しようと動き出したアレイディアを上回るスピードで横を何かがすり抜けていく。


(モーラさん?)


 ありえないほどの素早さでその兵士に近づき、あっと思う間も無く兵士はその場に崩れ落ちた。


(何が起きた!?)


 彼の思考は既に停止寸前となっていた。


「先輩!しっかりしてください!それと今すぐ近くの川から水を汲んできてください!バケツ一杯でいいので早く!!」


 ミューの一言に目が覚めたかのようにアレイディアは走り出した。たまたま近くにいた村人の女性がバケツを持って歩いていたため、丁寧にお願いをして借りることができた。頭にある地図を元に一気に川まで走り、できる限りこぼさないように慎重に、だが素早く水を運ぶ。


 元の場所に戻ると、なぜかほとんどの兵士と村人達が木陰などに座らされ、倒れたり暴れたりしている者は誰一人いなくなっていた。付き添い看病する村人も増え、少しずつ事態が落ち着いてきたことを物語っていた。



 ふと、村人の一人の手を握り優しい笑顔で声を掛けている女性が視界に入る。モーラさんだ、と思った瞬間先ほどの衝撃を思い出す。


(なぜ、どこから彼女は現れたんだ?しかもあのカード、俺は今日の服に入れた覚えがない・・・)


 数々の疑問に苛まれながら、アレイディアはゆっくりとミューに近づいていった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「モーラさん」


 アレイディアが静かに声を掛ける。ミューは木陰で休んでいた女性の手に触れて『治癒』をかけていたようだ。しかし体力が奪われているようで、女性はぐったりと木にもたれかかっている。ミューがアレイディアに気づいて振り返る。


「アレンさん、川の水を汲んできてくださったんですね!ありがとうございます!」


 嬉しそうに彼からバケツを受け取った。


「落ち着いたら、話があります。」


 アレイディアの低い声に、女性に向き直ったミューは振り返らないまま、わかりましたと返事を返した。




 火事はこの騒動の間に鎮火していたようで、焦げ臭い匂いと建物の残骸だけがその場の悲劇を如実に伝えている。


 アレイディアが火事の現場を離れ、思い切って問題の溜池に向かおうとした時、ミューが前方から歩いてくるのが見えた。


「モーラさん、これはどういうことですか?」


 アレイディアの怒りとも苛立ちともわからない気持ちがミューにぶつけられていく。


「これ、とは何のことです?」


 ミューはアレイディアと目を合わさない。


「俺が川に水汲みに行かされている間に事態は収束。暴れていた兵士をあなたは一瞬で制圧。溜池が怪しいと思っていたらあなたはもうそこに行き、戻ってきている。」


 アレイディアの青い目が、絶対に逃がさないというようにミューを捉えた。


「いい加減俺にも説明をしてくれないか?」


 声のトーンは落ち着いていたが、これ以上説明がないことは許さないという決意のようなものを感じ、ミューは押し黙った。


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