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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第一章 ゾルダーク編
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最初の事件①

 アレイディアは衝撃的な依頼を受けた次の日、日が昇る頃からゴソゴソと起き始め、もう眠れないとばかりに外に繰り出した。朝から曇っていて蒸し暑さはあるが、日が差していない分過ごしやすい。


 いつも仲間と遊ぶ店や朝早くから賑わいのある市場を通り過ぎ、街の外にある小高い丘に向かって歩き出した。街の景色全体が見渡せるそこは、彼のお気に入りのスポットだ。



 歩きながら昨日の二人について考える。


 昨夜は考えたくなくて酒を飲んでさっさと寝てしまったが、日常の平和な風景に触れて少しずつ落ち着きと余裕を取り戻しつつあるので、今日の第二回会議に向け心の準備をしていこうと考えていた。


(結局あの二人、何者かはわからずじまいだったな。)


 彼らのような異質な存在には普段鍛えたつもりの精神も簡単に揺り動かされる。そうした出会いで落ち込みはしないが、自分の範疇を超えた存在に必要以上に畏れを感じるあたり、まだまだ力不足なのだろうか。



 そんなことを考えながらゆっくりと歩いていると、目的地の丘の方から見知った人が走ってくる。


「ん?マキルさん?」


 同じ隊の先輩マキルが血相を変えて丘を下ってくる。制服姿なので何か昨夜から任務についていたのだろうかと待ち構えていると、マキルがアレイディアに気付いたのか大きく手を振ってくる。


「おーい、アレン!こっちはだめだー!!」

「マキルさん、どうしたんですか?」


 いつものんびりしている、語尾まで伸びているマキルさんがこんなに慌てるなんて珍しい。


「いやー、昨夜から丘の向こうのテッセ村で火事が起きていてなー、あの村は人手が足りないからこっちの兵で『物質移動』持ちが近くの川から水を運んで、消火にあたることになってたんだがー・・・」


 はあはあと苦しそうに息を整えてから話を続ける。


「川じゃ遠いってんで近くの溜池の水を使うことになったんだよー。でもその水がおかしいことがわかって、『分析』担当の僕が呼ばれたんだ、そしたらさー、特に何のおかしいものも入ってなくてなー。それが怖いから一旦城に報告に戻るんだよー!」


 アレイディアは眉を顰める。


「マキルさん、じゃあなんでその水がおかしいってわかったんです?」

「ああ、そりゃその水を撒いた兵と周囲で見てた村人の何人かが、水がかかった後ちょっとおかしくなってるからなあー!」


(なんだそれ、昨日の今日で早速事件か?)


 アレイディアは未だ興奮気味のマキルを落ち着かせ、わかりましたからとにかく急いで報告に向かってくださいと城へ急がせた。


 そして一人になって丘の向こうに目を向ける。わからない。わからないがこの件はなぜか自分が関わるべきものだという予感がある。そしてこういう勘はほぼ外れない。


「行くか。」


 アレイディアは私服だったが、そのまま現地に足を向け走り出した。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 体力には相当自信のあるアレイディアでも、丘を超えて更に十五分ほど走り続ければ流石に息が切れる。それでもペースを落として数分走っていると、すぐ近くに細くたなびく煙のようなものが見えた。


 もう一踏ん張りとばかりに煙の上がっている場所まで走っていくと、そこには青い顔で座り込んでいる者、泡を吹いて倒れている者、村人だろうか、抱えていたであろう荷物に押し潰されたかのように伏せっている者など、十数名の人間が異常な状態でそこにいた。火事にあった家は消火が完全に終わらず、まだ燻っているようだ。



 比較的軽症に見える兵士に声をかけると、どうやら少し遠くにある川よりも、近くにある溜池の方が早いと思い、そこから『物質移動』の天力で水を移動させて消火活動をしていたらしい。


 しかし『物質移動』はだいぶ特殊な力で、思っていたよりも新人の制御がうまくいかず、何人かの消火活動をしていた兵士と近くで火事の家を見ていた村人たちの身体にも水が掛かった。そのうちに水が掛かった者達に様々な異常が現れ、現在に至るとのことだった。



 川でなく溜池?何か良くないものが溶け込んでいたのか?いやでも成分に異常は無いらしい。近くで見てみたいところだが下手に近づいて自分まで動けなくなったら意味がない。それとまずは救助活動を手伝わねば・・・と思い至った時、シャツの胸ポケットが熱を帯びてくるのを感じた。


「なんだ!?」


 驚いてポケットに手を突っ込み、中にあった薄っぺらいものを引き抜く。


「え、これ昨日の女性にもらったカード?」


 まじまじとその黒いカードを眺めていると更にカードが熱くなりうわっと叫んで手を離した。突然その場に強い光と風が巻き起こり、両腕で顔を覆っていると信じられない声が聞こえてきた。



「お待たせしました、先輩!それともお義兄様とお呼びした方がいいかしら?」



 黒く艶やかな髪を風に靡かせて、眼鏡を掛けた彼女がにこやかにそこに立っていた。


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