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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第四章 記憶と未来編
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愛する人の願いを

 ミトラはもう一度、島を訪れた。今度は一人きりで歩いている。


 ミューと歩いた道、話したこと、優しい笑顔、そしてあの温もり・・・全てを思い出し、思い出せたことでわかってしまった。


 ―――ミューが、セトラに還ったことを。



 その事実が、一旦はミトラを絶望の底に突き落とした。だがその手に握りしめた鈴が、まだ光り続けている。それがなぜか、彼女の鈴と共鳴しているような気がしてならなかった。



 そして再び、大樹を仰ぎ見る。



 あれほど美しく輝いていた光の珠は、一つも光を放っていなかった。枝葉は弱り、根元に咲き乱れていた可憐な花々は全て散っていた。


(ミューの中にあった、あの力を吸収したからなのか?)


 わからないことだらけだったが、ミューがどこかで生きていることだけは、信じて疑わなかった。



(絶対に彼女を見つけてみせる!)



 大樹の前で祈りを捧げても、辺りを巡っても、枯れかけた姿や萎れている花々しか目に入ってこない。何も手がかりが見つからないまま、ミトラはしばらく大樹の近くを彷徨い歩いていた。日は既に落ち、辺りは暗闇に包まれかけていた。



 そしてふと、その弱った幹に手が触れた時、鈴の音が聞こえた気がして立ち止まった。


 ハッとして耳を澄ます。


(何も聞こえない・・・)



 それでもこの音を決して逃してはいけないと、繰り返し幹に触れ、周りをグルグルと何度も歩いた。


(駄目か・・・気のせいだったのか?)



「ミュー・・・そこにいたら返事をしてほしい。もうあんな思いはしたくないんだ。君を二度と失いたくない。皺くちゃになるまで一緒にいるって約束しただろ?いつまでも頬に触れて、君と美味しいごはんを食べて、何気ない話をするんだろ?約束したじゃないか!約束・・・したのに・・・」


 ミトラは血が滲むほど両手を幹に打ち付けながら、膝から崩れ落ちた。


 そして、その手から、鈴が滑り落ちる。



 チリンチリンチリンチリーン・・・



 少し下まで転がっていき、ミトラは振り返って力なく鈴を取りに降りていった。小さな光で足元を照らす。そして鈴を拾い上げた瞬間、さっきまでミトラが縋り付いていた幹の辺りに亀裂が入る。


 バキバキッ、という強烈な音と共に幹が縦にいく筋も裂け、ミトラが呆然とする中、ちょうど彼が向かった側と反対方向にその巨木は倒れていく。



 ズドオーーーーン・・・



 轟音を辺りに響かせながら、大樹はその命を終えたことを知らせていた。大きな枝が頭上に無くなったことで、そこにはぽっかりと、暗くなった空が浮かんでいた。雲がかかっている。



 再び静けさが訪れ、ミトラはその裂け目が入った部分を確認に行く。それは全くの無意識だったが、まるで何かに導かれるようだった。



 そして、ようやくその音が耳に届く。



 チリン・・・



「鈴・・・?」



 そっと近寄る。木の幹があった場所を大きな光で照らした。



「・・・ミュー・・・!?」



 そこに、真っ白な顔をしたミューが横たわっていた。



「ミュー!?ミュー!!起きるんだ!!」


 幹が割れてしまった部分はたくさんの割れて尖った部分が残され、ミトラは服も体もあちこちボロボロになりながら、ミューの元にたどり着いた。そして彼女の体を抱き上げ、幹の外に出る。


「頼む、ミュー、目を覚ましてくれ!君がいない世界なんて、意味がないんだ!!愛してる。愛してるから、絶対にもう何があっても一人にはしないから、だから・・・俺の願いを叶えてくれ・・・!!」



 チリン、と、ミューの胸元で、鈴が揺れた。



 冷たく細い何かの感触が、目を瞑っていたミトラの頬に触れる。目を開けるとそれはミューの細く白い指だとわかった。



「ミトラ・・・」


「ミュー!!」


 

 そこには、まだ青白い顔色をした、ミューの笑顔があった。



「ミトラ、ごめんね。」

「どうしてこんな無茶をしたんだ・・・しかも俺から君の記憶まで奪って!」

「うん。ごめん。」

「あの後、何があった?」


 ミューはミトラの腕の中で少し動いた。


「おろして・・・重いでしょ?」

「重くない。いいから答えて。」


 ミューは諦めたように笑うと、小さな声で話し始めた。


「・・・私の中にあった力はほぼ全て、セトラが持っていっちゃったの。」

「え!?全部?」

「うん。本来この世界にはないものを受け入れるのは、例えこの力のある星でも大変なことだったみたいで・・・大樹は枯れてしまった。」

「そうだね。もう力が感じられないよ。」

「私の中に今残っているのは、浄化の力だけ。」

「え?」


 ミューはミトラをじっと見つめる。


「浄化以外何の力も無い私だけど、ミトラは・・・側にいてくれる?」


 途端にミトラが怒りを露わにする。


「当たり前だ!!俺がいつ君の力を好きだって言った!?そんなものいっそ無い方がせいせいする!!俺が君の側にいればいいだけだろ?ずっとずっと、俺の隣にいてくれるんだよね!?」


 ミューはちょっと苦しそうに笑う。


「じゃあ、お願い。」


 ミトラは息を止めた。


「ミトラ、愛してる。ずっとずっと、最後の瞬間まで、私と一緒に生きてください。」


 二人はただ見つめ合い、微笑み合った。


「ミュー。愛してる。俺が君の願いを叶え続けてみせるよ。俺と、最後の瞬間まで一緒に生きよう。」



 その瞬間、雲がスーッと晴れていき、二人の頭上には数えきれないほどの星々が、二人を祝福するように瞬いていた。


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