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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第四章 記憶と未来編
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永遠の終わり

 その日から一週間が経過した。ミトラは何もミューのことを話すことはなく、ただアレイディアに言われるがままにその宿に留まっていた。


「そろそろ帰らないと、仕事が溜まっているんだ。」

「駄目だ。彼女のことを思い出すまで、ここを出すわけにはいかない。」

「・・・そうか。」


 なぜか反抗するでもなく、納得するでもなく、アレイディアのいう通りに部屋で過ごしているミトラを、彼もただ放って置いた訳ではなかった。



「アレイディア殿!」


 最初にその宿にやってきたのは、クリフォーデン王子だった。あの日、ウシュナに導かれるがままに弟に会い、国に帰ってしまった彼は、戻ってからその不自然さに気付いて、何とか連絡を取ろうとしてくれていた。


 そして自国の国王にお願いし、友好国であるリンドアーク王への接触を果たし、アレイディアの部下を通じて情報を掴みこの宿までやってきていた。



「ミトラ様が、ミュー様のことをお忘れになってしまったのですか!?」


 アレイディアから事情を聞いた彼は驚愕して座り込んだ。


「あれほどまでに大切になさっていたのに・・・私は自分の気持ちなど取るに足らないと、きちんと諦めてここまで来たのですが・・・。」


 クリフのその言葉に、アレイディアも苦しい表情を浮かべる。


「どうにかして今はここに引き留めているが、あいつはいつでも流星宮に帰れるんだ。そうさせないためにも、彼女のことを何とか思い出させたい。力を貸してくれ!」

「もちろんです!・・・ちなみに、消えてしまったネイシェブの住民達ですが、街を通った時に全員がどこからか戻ってきた、という話を聞きました。それとライラメア殿も明日にはこちらに来られるそうです。他にもどなたかいらっしゃるのですか?」


(ネイシェブの住民が戻った・・・つまりウシュナはもう・・・)


「ああ、以前にお世話になった二人と、流星宮でよく話題に上っていた星守を呼んでいる。そちらはどうにかして星宮経由で来るという知らせが届いた。二、三日中には来るだろう。」

「そうですか・・・」


 そしてクリフは早速ミトラに会い、ミューの話を振っていくが、全く覚えていないという返事しか返ってこなかった。



 翌日はライラメアが、さらにその翌日にはチェルシアンナとオリヴェイドが、星守の男と共に宿に現れた。


「では、本当に何も覚えていないと?」

オリヴェイドが暗い表情で隣の部屋のドアを見つめた。

「はい。ミューのことだけ、すっぽり抜けているんです。どうしてかはわからないのですが。」


 モリノという星守が、何かを思いついたかのように顔を上げた。


「ミュー様が、そのように願われたのではないですか?」

「あら、でもさっきの話では、ミューラさんが願ったことは叶わないのではなくて?」

事情を先に説明して置いたチェルシアンナが不思議そうに質問する。


「これは推測ですが、ミュー様は本当に、ミトラ様にご自分を忘れてほしいとお思いだったと思います。でもその反面、当然愛する人に自分を忘れてほしくないと言う想いもお持ちだったのではないでしょうか?」


 その場にいた三人は、静かな廊下に立ったまま、それが真実であることを納得し、その想いの強さと切なさに言葉を失っていた。



 チェルシアンナが突然顔を上げ、ミトラの部屋のドアをノックする。


「このままでは絶対に駄目よ!私は彼女の親友であり母ですもの!絶対に思い出させましょう!!それしかミューラさんを救い出す手立てはないわ。」


 そしてミトラの部屋に突き進む。



「ミトラ様、ご無沙汰しております。覚えていらっしゃいますか?」

「え?ああ、あなたは、確かゾルダークの星宮で儀式をした方ですね。」

「ええ。なぜその時にあれほど愛おしそうに手を繋いでいた方を思い出しませんの?あなたの心はそんなに薄っぺらいものでしたの?あんなに、あんなに二人は愛し合っていましたのに!!」


 チェルシアンナは涙を流しながらそこに座り込んだ。そしてその後ろからオリヴェイドも声をかける。


「あの日あなたの苦しい想いを知って、僕は手を引いたんです。それがこの状態は何ですか?あなたらしくもない!しっかりしてください!!」


 ミトラはただぼーっとその話を聞いている。


「ミトラ様。」


 モリノが何かをミトラの手に載せた。


「これが何かお分かりになりますか?私達はこれを誰も知りません。でも、私には何かこれがあなた様にとって大切なもののような気がするのです。星守は、セトラの意志を感じる者。これには何か大切な思い出が詰まっている、そう星が教えてくれているように感じるのです。」


 ミトラは手をゆっくりと開いて、渡されたものを見た。


「ミトラ様・・・」


 その頬には涙が流れていた。


「ミトラ殿。それ、鈴だろ?たぶんミューとお揃いの。何度かその音を聞いたんだ。だからわかる。それは二人だけの大切な物なんだ、絶対に。二人が繋がっている証じゃないのか?あんたしか、彼女を助けられないんじゃないのか!?」


 チリーン、とミトラが鈴を鳴らした。



 その音は優しくその部屋に響き、ミトラの目に、光が戻った。



「ミュー・・・?・・うわあああああああああっ・・・!!」



 全ての縛りが解けたこと、そしてその意味を理解したミトラの魂からの叫びが、宿全体に響き渡っていった。


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