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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第四章 記憶と未来編
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未来のためにすべきこと

 ミューは再び光の中にいた。隣にはミトラがいる。


「ミトラ、ここからはしばらく一人で行くから。」

「どうして?俺も一緒に行くよ。」

「お願い。これは私がやるべきことなの。」

「・・・わかった。近くにいるから。」

「うん。」


 そしてミューはミトラから離れ、光の中に浮かぶ草原を見つけてそこにゆっくりと歩いていく。


 しばらく歩き続けると、遥か後方に小さくミトラの姿が見えた。


 そして、別の光の中に導かれ、その姿すら見えなくなった。その瞬間、目の前に、懐かしい女性の姿がふっと現れた。




『実悠宇』


「・・・お母さん?」


『ごめんね。ずっと一人ぼっちにしてしまって。』


「ううん。いいの。私を、あの日最後に助けてくれたんだよね。」


『でもそれがあなたを縛ることになってしまった。ごめんなさい。』


「そんなことない。私はミトラと出会えたし、何も悔いは残ってないよ。」


『ここに戻るつもりなの?彼を置いて?』


「・・・そうしないと全てが終わらないから。」


 母の幻影が、光に包まれたままミューの手を包み込む。触れる感触はないが、なぜか温かいものが流れ込んでくるような気持ちになる。


「もう、戻れないかもしれない。でもやるしかないの。私は何人もの人の人生を縛ってしまったから。だから・・・」


 ミューの頬にはいく筋もの涙が流れていた。アミルはその顔を優しく見守りながら、ただミューの側にいてくれる。


『あなたの信じる道を選びなさい。セトラがどういう結論を出すかはわからない。でも、あなたを愛してくれているのは確かなのよ。だから安心して、思う道を進みなさい。でも、彼に何も伝えなくていいの?本当にそれで後悔しない?』


「・・・する。」


『じゃあ、きちんと伝えてからになさい。大丈夫。ここは緩やかな時間しか流れていないから。さあ、早く行ってきなさい。』


「うん。」





 そして振り返って走る。光を抜けると、思った以上にミトラが近くに現れた。


「どうした?何かあったのか?」

ミトラは突然光から現れたミューを見て驚く。

「ううん、違うの。大事なことを伝えるのを忘れてたんだ。」


 ミューは、赤くなってしまった目を向けて、ミトラに向き合った。


「ミトラ、愛してる。」


「・・・ミュー?どういうこと?何をするつもり!?」


「ごめんね。戻ってこられるかはわからない。でも私の全てを受け入れてくれるのは今セトラだけなの。ウシュナの抱えていた闇も、止まってしまった時間も、私の強すぎる力も、全部は抱えきれない。セトラに溶け込んで、新たな始まりに賭けるしかない。」


 ミトラの顔が蒼白になる。


「それってつまり、星に還るってこと?」

「・・・うん。」

「そんなことをしたらもう二度と会えなくなるんだぞ!やっとここまで来たのに、こんなに長く君と生きてきたのに!?そんなの認められない!!絶対に駄目だ!!」


 心からの叫びがミューに突き刺さった。だが、ミューの決意は変わらなかった。


「ミトラ、愛してるよ。ずっとこれからも、永遠に。よかった。ちゃんと最後はあなたに言えた。ミトラがこれからの人生を幸せに生きられるように、セトラにお願いしておくね。」


 ミューの腕を掴み、ミトラは強引に引き寄せた。


「絶対にこの手は離さない。行くなら俺も連れていってくれ。」

「駄目。」

「どうして!?」

「セトラに、私だけしか今は受け入れられないって言われてるから。」

「・・・」


 ミューはミトラの頬にそっと触れた。


「泣かないで。もしかしたら、うまくいけば、戻って来られるかもしれない。でも期待をさせたくないの。悲しみをこれ以上増やしたくない。だからお願い、『私のことをずっと覚えていて。』

「・・・!?」


 そして、ミューはそこに立ちすくむミトラにキスをして、再び光の中に、消えていった。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ミトラが次に気が付いたのは、宿の部屋のベッドの上だった。身体を起こすと、そこにはなぜかアレイディアの冷たい視線があった。


「あんた、一体何してたんだ?ミューはどうした!?あんただけここに帰ってきた時は本当に、ぶん殴ってやろうかと思ったよ!!」


 怒りの表情の訳も、『ミュー』という名前にも心当たりがなく、虚な表情を向けて言った。


「ミュー?って誰だ?」

「はあ!?お前ふざけるなよ!!お前の愛した人だろうが!!たった一人の人なんだろ!?俺が何のために諦めたと思ってるんだ!!」


 胸ぐらを掴み怒鳴りつけたが、ミトラは全く反応しなかった。


「・・・本当に忘れてるのか?」

「忘れているかどうかもわからない。でもその人の名は知らない。」

「なんてこった・・・。」



 アレイディアは途方に暮れつつ、窓の外が嵐に包まれていくのを、ただただ見つめていた。


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