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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第四章 記憶と未来編
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星の愛、ウシュナの終わり

 ミューが意識を取り戻すと、すぐ側に人の気配があった。


「ミトラ?」


 はっきりしない視界、それが次第に晴れていき、そして自分のことを今抱きしめているのが、ミトラではないことを悟る。


「ウシュナお兄ちゃん」


 ウシュナの肩が揺れた。


「ミユウ、久しぶりにその名で呼んでくれたね。」

「うん。思い出したの。どうして忘れていたんだろう。ウシュナお兄ちゃんは私にすごく優しくしてくれたのに。」

「いいよもう。それよりこれから先のことだよ。私は君と一緒に居たい。君が側にいれば、いつも闇に閉ざされたままのこの心も少し明るくなるんだ。ねえ、ミユウ、愛しい人。私と一緒に生きよう?」


 ミューはゆっくりと首を横に振った。


「ウシュナお兄ちゃん。それはできない。だって私はもうミトラと生きるって決めてしまったから。だから、本当にごめんなさい。」


 ウシュナの身体から黒く渦巻く何かが噴き出し始める。


「ミユウ、君はもう私の腕の中にいるんだよ?逃げられると思ってるの?」

「以前の私は無理だったと思う。でも今はできるよ?」

「じゃあやってみて。」


 そしてまたウシュナはあの青く光る瞳をミューに向ける。


「もう離さない。君は私のものになるんだ。」


「ウシュナお兄ちゃん。大好きだよ。だから、今まで苦しめて、ごめんね。私が全部いけなかったの。本当に本当にごめんなさい・・・」


 そしてミューはウシュナの胸に手を当てた。すると、ウシュナの周りを取り囲むように漂っていた濃く黒い靄が、ミューの手に集まり始める。どんどん濃縮されていくその黒が、実体を持ち蠢いているかのように見え始めた時、ミューが胸に唇を近付けた。


「ミユウ、何を・・・」



 そして



 ミューはその黒いものを、一気に自分の中に吸い込んだ。



 辺りに逃げ惑うように散り散りになる黒い何かは、次第にその力を失うように、全て、ミューの身体の中に吸い込まれていった。



「な、にを、したんだ?」

ウシュナは息も絶え絶えにミューを見ている。


「全部、あなたの中に私が落としてしまったものを回収したの。」

「ぜんぶ・・・」

「禁忌の力も、あなたに無意識に分け与えてしまった永遠の命も、全部。本来あなたに渡すべきものではなかった。私のものは、私が全て受け入れて愛さなければならなかったのに。ウシュナお兄ちゃん、ごめんね。」


 ウシュナはミューから離れ、その場に跪いた。


「終わりなのか、これで。」

「うん。」

「何もできなかった。」

「そんなことないよ。」

「アミルを愛していたんだ。」

「うん。」

「君とも一緒にいたかった。」

「うん。」


 手を伸ばした。ミューはその手を取り、微笑む。


「セトラがね、みんなわかっているから戻っておいでって。」


 ウシュナは涙を流す。


「そうか。」


「ウシュナお兄ちゃん、大丈夫。私もいつかそこに行くから。お母さんもいるよ、きっと。」


 そしてウシュナは頷き、大樹の下で、大きな光に包まれて、消えていった。




「う・・・苦しい・・・」

「ミュー?」

「ミトラ?」


 ミューが見上げるとそこには心配そうな顔をしたミトラが立っていた。


「どうした?何かあったのか!?」

「ウシュナの力と、私が勝手に縛ったあの現実を全て吸収したの。」

「・・・え」


 ミューは苦しそうに胸を押さえる。


「大丈夫か!?」

「うん。苦しいだけ。・・・ねえミトラ。私、さっきここで夢を見たの。」

「夢?」

「うん。自分自身の過去だった。それでね、その後セトラと話したの。」

「話ができたのか・・・それはすごいな。」


 ミトラは笑顔のまま目を見開いた。


「そうしたらね、わかったんだ。私は自分の中に生まれたものを、全て拒絶してたんだって。全部愛して受け入れていれば、こんなことにはならなかった。もっと一緒に歩んでいれば、違う未来があったかもしれない。」

「でも、だからこそ俺達は出会えた。」


 ミューは頷く。


「そう。だから今度は、ここまでの人生全てを受け入れる。私の中に生まれたものは全部。そうしたらね、その私ごとセトラが愛してくれるって。だから大丈夫だよって、言ってくれたの。」


 ミトラが抱きしめた。


「そうか。」

「うん。」

「じゃあそれを俺も見守るよ。」

「いいの?」

「もちろん。」


 ミューもミトラをギュッと抱きしめる。


「大丈夫。俺がずっと側にいるから。」

「うん。私も。」



 そして、ミューは再び大樹に向き合い、その大きな幹に手を触れた。


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