星の愛、ウシュナの終わり
ミューが意識を取り戻すと、すぐ側に人の気配があった。
「ミトラ?」
はっきりしない視界、それが次第に晴れていき、そして自分のことを今抱きしめているのが、ミトラではないことを悟る。
「ウシュナお兄ちゃん」
ウシュナの肩が揺れた。
「ミユウ、久しぶりにその名で呼んでくれたね。」
「うん。思い出したの。どうして忘れていたんだろう。ウシュナお兄ちゃんは私にすごく優しくしてくれたのに。」
「いいよもう。それよりこれから先のことだよ。私は君と一緒に居たい。君が側にいれば、いつも闇に閉ざされたままのこの心も少し明るくなるんだ。ねえ、ミユウ、愛しい人。私と一緒に生きよう?」
ミューはゆっくりと首を横に振った。
「ウシュナお兄ちゃん。それはできない。だって私はもうミトラと生きるって決めてしまったから。だから、本当にごめんなさい。」
ウシュナの身体から黒く渦巻く何かが噴き出し始める。
「ミユウ、君はもう私の腕の中にいるんだよ?逃げられると思ってるの?」
「以前の私は無理だったと思う。でも今はできるよ?」
「じゃあやってみて。」
そしてまたウシュナはあの青く光る瞳をミューに向ける。
「もう離さない。君は私のものになるんだ。」
「ウシュナお兄ちゃん。大好きだよ。だから、今まで苦しめて、ごめんね。私が全部いけなかったの。本当に本当にごめんなさい・・・」
そしてミューはウシュナの胸に手を当てた。すると、ウシュナの周りを取り囲むように漂っていた濃く黒い靄が、ミューの手に集まり始める。どんどん濃縮されていくその黒が、実体を持ち蠢いているかのように見え始めた時、ミューが胸に唇を近付けた。
「ミユウ、何を・・・」
そして
ミューはその黒いものを、一気に自分の中に吸い込んだ。
辺りに逃げ惑うように散り散りになる黒い何かは、次第にその力を失うように、全て、ミューの身体の中に吸い込まれていった。
「な、にを、したんだ?」
ウシュナは息も絶え絶えにミューを見ている。
「全部、あなたの中に私が落としてしまったものを回収したの。」
「ぜんぶ・・・」
「禁忌の力も、あなたに無意識に分け与えてしまった永遠の命も、全部。本来あなたに渡すべきものではなかった。私のものは、私が全て受け入れて愛さなければならなかったのに。ウシュナお兄ちゃん、ごめんね。」
ウシュナはミューから離れ、その場に跪いた。
「終わりなのか、これで。」
「うん。」
「何もできなかった。」
「そんなことないよ。」
「アミルを愛していたんだ。」
「うん。」
「君とも一緒にいたかった。」
「うん。」
手を伸ばした。ミューはその手を取り、微笑む。
「セトラがね、みんなわかっているから戻っておいでって。」
ウシュナは涙を流す。
「そうか。」
「ウシュナお兄ちゃん、大丈夫。私もいつかそこに行くから。お母さんもいるよ、きっと。」
そしてウシュナは頷き、大樹の下で、大きな光に包まれて、消えていった。
「う・・・苦しい・・・」
「ミュー?」
「ミトラ?」
ミューが見上げるとそこには心配そうな顔をしたミトラが立っていた。
「どうした?何かあったのか!?」
「ウシュナの力と、私が勝手に縛ったあの現実を全て吸収したの。」
「・・・え」
ミューは苦しそうに胸を押さえる。
「大丈夫か!?」
「うん。苦しいだけ。・・・ねえミトラ。私、さっきここで夢を見たの。」
「夢?」
「うん。自分自身の過去だった。それでね、その後セトラと話したの。」
「話ができたのか・・・それはすごいな。」
ミトラは笑顔のまま目を見開いた。
「そうしたらね、わかったんだ。私は自分の中に生まれたものを、全て拒絶してたんだって。全部愛して受け入れていれば、こんなことにはならなかった。もっと一緒に歩んでいれば、違う未来があったかもしれない。」
「でも、だからこそ俺達は出会えた。」
ミューは頷く。
「そう。だから今度は、ここまでの人生全てを受け入れる。私の中に生まれたものは全部。そうしたらね、その私ごとセトラが愛してくれるって。だから大丈夫だよって、言ってくれたの。」
ミトラが抱きしめた。
「そうか。」
「うん。」
「じゃあそれを俺も見守るよ。」
「いいの?」
「もちろん。」
ミューもミトラをギュッと抱きしめる。
「大丈夫。俺がずっと側にいるから。」
「うん。私も。」
そして、ミューは再び大樹に向き合い、その大きな幹に手を触れた。