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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第四章 記憶と未来編
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ミトラと儀式

 その先の草原と思われていた場所に到着すると、思っていた以上に草が高く伸びて生えていることに驚いた。


「思っている以上に高さのある草なんだ。だから先が見えず、導かれていない者は道を見失う。また森に戻っていたり、全然見たことのない景色の場所に移動してしまうらしい。」


 ミューは鬱蒼と茂る草の中で、空だけを見上げていた。


「もう夕方だね。暗くなる前にはさすがに到着できないかな?」

「いや、ギリギリ行けるかもしれない。諦めずに進んでいこう。辛かったら俺が君を背負っていくよ?」

「え、それはさすがに恥ずかしいよ!大丈夫!まだまだ元気に歩けるから!!」


 ミューが必死になって拒否する様子を面白そうにミトラが眺めている。


「わかったわかった!じゃあ頑張って歩こう。必ず君を大樹の元に連れていくから。」




 そして辺りは気がつけばもう日が暮れて、深い深い闇に包まれていた。背の高い草の中を歩き続けながら、その小さく切り取られた空に浮かぶ星々を時々眺める。ミトラが足元を『光』で照らし、草をかき分ける音と二人の息遣いだけがそこに響いていた。


「あ」


 ミトラの小さな声に気付き、前を見る。


 そこには、それまでの背の高い草はもう見えず、足元には様々な色の花が咲き乱れ、ずっと先までそれが続いていた。


 緩やかな坂になっているそこは、すでに大樹の枝の真下だった。


 なぜかその枝にはたくさんの光る球のようなものが無数についており、地面からは遠く離れていても、そこは曇った日の昼間位の明るさがあった。


「きれい・・・」

「ああ。」


 二人はそのまましばらくその景色に目を奪われ、そしてゆっくりと大樹の幹がある方向に歩き出した。


 所々、大樹の根だと思われる太い何かが地面に現れていたが、それ以外の部分は全て可愛らしい花々で覆われていた。


 一歩一歩前に進み、そしてようやく、二人は大樹の幹の前にたどり着いた。




 その幹は、まるで何本もの大木がより集まったかのような姿をしていた。その周囲を回ると、木の中に家が二、三軒建ってもおかしくないほどの広さがとれるのでは?とミューは思った。


 幹の窪んでいる部分や隙間には、光る筋が何本も走っている。光は弱いものだったが、よく見ると上に少しずつ上がっているようにも見えた。



「こんな奇跡みたいな木が存在するのね・・・」


 ミューは幹に触れながら、そのあり得ないほど神々しい姿にため息がもれる。


「ミュー、それじゃあ始めるよ。」


 ミューがその声に気付き振り返ると、ミトラはすでに祭服に着替え、準備を整えていた。


「わかった。その下の石のところで待っているね。」

「うん。もしウシュナが現れたら、俺のことは気にせず逃げるんだ。いいね?」

「はい。」



 そしてミトラは、大樹の幹に触れながら、その場に膝をついた。



 身体の表面に少しずつ光が浮かび始める。次第に光が強くなり、その色を虹色に変えていった。ミトラの周囲には風が巻き起こり、側にあった花々の花弁が一緒に舞い上がった。


 そして、光に包まれた彼は、その場からふっ、と消えていった。



「ミトラ・・・ここで待っているから。」


 ミューはミトラがいなくなった場所に近寄り、幹の側に座って彼を想った。


 幹にそっと触れてみると、小さな音が聞こえてくる。どこからだろうと耳をそば立てていると、それが幹の中からの音だと気付いた。


 コポコポコポ、という水が流れるような音と、それとは別にチリリという鈴のような音が聞こえてくる。どちらも耳に心地良くて、ミューの眠気を誘っていく。疲れも限界に来ていたのもあって、そのままそこに寄りかかるようにして、眠ってしまった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ミトラは光に包まれている自分を感じていた。虹色が微かに混じるその美しい光は、温かく優しくミトラを受け入れてくれている。


「セトラ、聞いてください。私はここに、大切な人を守るための記憶を探しに来ました。あなたの中に眠るその記憶の一端を、どうか私に見せてはいただけませんか?」


 自分の周りにたくさんのぼやっとした光が飛び交っている。虹色に光るシャボン玉がぼやけて飛んでいるかのような幻想的な景色に、ミトラはただ幸せを感じていた。


「私は管理者としてはまだまだです。アミル様のようにはできていないことも多い。ですがあなたの愛する守り人ミューを、私の生涯をかけて大切にしてきました。彼女のためなんです。私は・・・俺は彼女を愛しているんです!どうか、どうか力を貸してください!!お願いします!!」



 ミトラの最後の叫びは、一つの光の珠に変化を生み出した。



 その光の珠はふわっと音もなく膨らみ続け、気が付いた時にはミトラとその周囲を全て包み込んでいた。


 そしてそこに、ミトラが知りたいと願っていた過去が、まるで走馬灯のように流れていった。


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