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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第四章 記憶と未来編
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大樹のある島

 翌日、天候は良好なまま、無事に目的地である大樹のある島に到着した。


 この島には誰も住んでおらず、ただひたすら大自然の中を歩いて行くことになる。道はなく、ただ導かれるままに進むことしかできない場所。


「ミュー。ここからがある意味本当の試練になるかもしれない。手を握るから、絶対離さないで。」

「うん、わかった。」


 ミトラは道なき道を歩き始めた。



 しばらく草がぼうぼうと生えている地帯を歩き続けていると、突然開けた場所に抜けた。小さい岩と砂があるだけで、ほとんど草が生えていない。


「ここだけ何もないのも不思議だね。」

「・・・ミュー、多分ここに誰か居たんだ。」

「誰かって・・・ウシュナ、ってこと?」

「ここに降り立ったのかそれともここに滞在して俺達を待っていたのか。どちらにしろ先回りされているのは確かだよ。」

「いつ出会うかわからないってこと、だよね?」


 ミトラはその言葉に反応しないまま少し考えていた。


「ミトラ?」

「いや、もしかしたらほとんど会わないかもしれない。」

「どうして?」

「大樹に出会うためには星に導かれる必要がある。そして苦労もなくここにたどり着いても結局大樹に出会うことはできないんだ。呼ばれていない者は会えない。ウシュナは今回『呼ばれていない者』だから、大樹の元に向かっている俺達とはなかなか会えないはずなんだよ。」

「・・・私も呼んでくれているのかな、セトラは。」


 ミトラが慈しむような微笑みを浮かべ、ミューを見つめる。


「もちろん。あれほど星に愛されている人はそうそういないよ。君はここに来るべくして来たんだ。大丈夫。きっとセトラの意志と会えるよ。さあ、このまままっすぐ進もう。」




 開けた場所から離れ、少しずつ森の中に入り込んでいく。足元は湿った土と枯れ葉、大きな木の根っこなどで足を取られ、ここだけでだいぶ体力を奪われていく。


 一時間ほど地面と格闘しながら歩いていくと、遠くから微かに水の音が聞こえてきた。


「ああ、ここは来たことがある気がするよ。」

「そうなの?きれいな川だね。水、飲めるかな?」

「飲めると思うよ。ここの自然は全て人の手が入っていない、星の恵で溢れた場所なんだ。」

「うん、おいしい!ミトラも飲んで!」


 小さな木のカップを手渡すと、ミトラもそれで川の水を掬って飲み始める。持ってきた水筒にも水を注ぎ入れ、持ってきた干し肉とビスケットのようなものを口にして暫し休憩をとる。


川の側の大きな岩場に二人で腰を下ろしながら、無言で川の音に耳を傾けている。そんな不思議な時間が、ミューには宝物のようだった。


「そうだ、この川は確か大樹の近くまで流れ込んでいたはずだよ。まあ、今はもう地形が変わっているかもしれないけどね。」

「そうなんだ・・・じゃあ、ご挨拶も兼ねて、川に浄化をかけておこうかな?」

「ウシュナも通っているかもしれない。その水を飲めば少し力も奪われる。やっておいて損はないと思うよ。」


 ミトラからも了承を得て、ミューは比較的力を大きくふるって浄化を川全体にかけていった。


「うっすら光が増した気がするね。」

「うん。ウシュナもだけど、大樹に届いていたらいいな。」


 ミトラはそっと頭を撫で、そのまま胸の中に引き入れた。




 ミトラの胸に寄り添いながら少し休憩した後、再び二人は出発する。川沿いの歩きやすそうな場所を探しながら進み、途中からはまた森の中に入り込む。


 ひたすら歩き、時間もどれ位経ったのかわからなくなってきた頃、先が明るくなっている場所が見えた。急いでそこを目指して移動すると、一気に森が開けて、驚くほどに広い草原地帯が現れた。


 今いる場所よりも少し低くなっているそこには、少し蛇行しながら流れる川が見えており、その先をずっと目で追っていくと、はたしてそこに、大樹があった。



「すごい・・・大樹ってあんなに大きいんだ。本当にこんなに大きな木が存在するなんて・・・」


 ミューは、遥か遠くに見えるその巨木から、もう目が離せなかった。これほどの距離がありながらあの大きさ、高さもだがその幹の太さに驚く。


「俺も最初に見た時は震えたよ。その大きさもだけど、ここからまだまだ距離があるんだなってね。」


 ミトラが苦笑しながらそう言うと、ミューも一緒に笑った。


「大丈夫、一緒にいれば頑張れるよ。」

「そうだな。もう少し先まで行ってから休憩しよう。」

「うん。」



 大海原のように広がる草原地帯に向けて、繋いだ手を離さずに、二人は進んでいった。


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