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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第四章 記憶と未来編
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海の向こうへ

「ミュー、起きてる?話があるんだ。」


 朝早く、アレイディアが部屋にやってきた。ミューは着替えた後だったので、すぐにドアを開け彼を迎え入れる。


「どうしたの?もう準備できた?」

ミューが不思議そうな声で尋ねた。


「ミュー。聞いて欲しい。俺は、この先には行かない。」


 アレイディアの言葉に、ミューはただ黙ってそこに立っていた。


「ここから先は、二人で行くべきだと思う。俺には君を守る力は無いし、足手まといになるのがオチだから。その代わり、ここで待つよ。何日でもここで待っている。二人が帰ってきて、俺達全員の未来を変える時を、ここで待っているから。だから絶対に生きて帰ってくるんだ。約束してくれ。」


 ミューは涙を堪えて頷いた。


「うん。約束する。アレイディア、本当にありがとう。私ね、少しはアレイディアのこと・・・気になっていたよ。ずっと。でも気持ちには応えられなくて、本当にごめん。昨日親友だって言ってくれたこと、今までで一番嬉しかった。私もアレイディアのこと一生の親友だと思ってる。」


 そしてアレイディアに抱きつく。


「必ず帰ってくるから。必ず。約束するから。」

「うん。ミューのこと、待ってる。」


 そうして微笑みあった二人は、もう一度だけ、友情のハグを交わした。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ミトラが準備を整えて宿の外に出ると、外には晴れ渡った青い空が広がっていた。眩しい朝日を浴びて目を細める。そして気配に気づいて振り返ると、アレイディアとミューが並んで立っていた。


 ミトラは無表情のままそこに立っている。


「ミトラ殿。俺はこの先には行かないと決断した。その代わりここで二人が帰ってくるのを待っている。だから必ず、ミューを連れて笑顔で帰ってきてくれ。頼む。」


 アレイディアの真剣な眼差しは、ミトラにその決意の意味をしっかりと伝えていた。


「わかった。約束しよう。ここに無事二人で帰ってくる。」


 そしてミトラはアレイディアに握手を求めた。


「ありがとう。」

「・・・いえ。こちらこそ。」


 アレイディアが握手を返す。


 そして三人はそこで、再会の約束を交わして、別れた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ミュー、行こう。」

「うん。」


 二人は海に向かい歩き始めた。船を借りるために昨日は一日ミトラが頑張ってくれた。ここユーディアは国王はいるが、基本的に自然と共存し生きる数多くの部族が寄り集まった国であり、統治するというよりも自然と部族を守ることに力を注いでいる王、そして王国となっている。


 そして今ミュー達が向かっている小さな港もまた、とある部族が管理し、その先にある聖なる島と大樹を守っているのだという。


「船、無事に準備できてよかったね。」

「ああ、昔ここに来た星守に命を助けてもらったことがあるとかで、恩返しをしたいからって言ってたよ。俺のことではないのに、律儀な人だ。でも本当にありがたいよ。」


 そう言ってミトラは優しく微笑む。


 港に到着すると、さっき話に出てきた男性らしき人が手を振って待っていた。近付いてお互いに感謝の気持ちを伝え合う。


「さあ、今日は最高の天気と波だ。星に愛されてるんだな。早速出発しようか。」


 男性のその言葉に二人ではいと答えて船に乗り込んだ。




 その船にはもう一人、船長である男性の息子が乗船していた。長旅になり交代で起きている必要があるからと、親子で協力してくれたことに改めてお礼を述べた。



 そしてミューとミトラは、船の中の小さな船室で小窓から外を見ながら到着までの時を過ごす。そこまで広くないので、休憩するときには彼らもやってくるが、今は二人っきりで座っていた。


「ミュー、船酔いとかは大丈夫?」

「うん。平気。ミトラは・・・大丈夫そうだね。」

「ああ、船酔いは大丈夫かな。」

「ミトラは何でもできるよね。」

「そんなことはないよ。」

「あるよ!いつもすごいなって思ってた。何でもできて、仕事でもみんなに尊敬されて、あれだけの組織をまとめ上げてる。力もあって容姿も良くて、弱点なんてないでしょ?」


 ミューが揶揄からかうように腕を突いて隣から顔を見上げる。

 

「それは・・・そう見せてるだけだよ。君に、カッコいいところだけを見せたくて、それが全ての始まりだったんだ。気がついたらそれ自体が面白くなったり段々できるようになってきたけど。でもきっかけは、全部君だよ?」


 ミューは思っても見なかった返答に言葉を失う。そんなにも自分のことを思っていてくれたんだと、改めて感動を覚えた。


「そっか。ミトラは本当になんでも頑張ってきたんだね。そのきっかけが私だったなんて嬉しくて恥ずかしいけど、でもやっぱり最終的にそれをやり遂げたのはミトラだもの。本当に尊敬するよ!」


 ミューのその言葉に少しだけ悲しそうな顔で、ミトラは手を伸ばした。


「尊敬も嬉しい。でも今は一人の男として、ミューには目の前の俺の姿だけを見ていて欲しい。」


 首筋から頬にかけてゆっくりと手で触れながらそう話す彼に、ミューはもう目が離せなくなる。


「ミトラ、私ずっと、あなたを見てきたよ?」


 ミトラは両方の手で彼女の顔を包み込むと、そのまま何も言わずに顔を近付けていった。


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