理由
「ミュー、そこに座って。」
リンドアーク王が自室に戻った後のミューの執務室では、ミトラの美しすぎる笑顔がおぞましいほどの色気を放ち、ミューは「ひぃ!?」と小さく悲鳴を上げた。
「ミトラの言いつけは守ると約束したじゃない!あれで話は終わったんじゃないの?」
ミトラが逃げようとするミューの肩を後ろからがっしりと掴んでソファーに座らせた。どうやら逃げることは不可能になったらしい。
足のたくさんある虫を見るような目つきでお怒りマックスのミトラの神々しいほどの笑顔を見つめる。
ああ、だめだ敬語を使わない状態は末期だな、とミューは諦めの境地に至った。
「さあ、今日のことはじっくりと話をしないとね。」
「はい、なんとも申し訳なく・・・」
「それは何について謝ってるの?さあ言ってみて。」
優し過ぎる声。優し過ぎる微笑み。裏に何を抱えているのか想像出来るようなしたくないような。ミトラがミューの隣にゆっくり座った。
「はい、ええと、何でしょうね?アレかな、諜報員とか一人で行くとか無理言ってしまったからかな〜?」
無言の笑顔。距離を詰められる。精神も追い詰められる。
「ミュー。」
「はい!!」
手をそっと握られ、ああ終わった、と思う。
「まだ、自分のせいだと思ってるの?」
「・・・それは、たぶんずっとそう思ってる。」
ミトラの手がほんのりと温かい。
「もうミューは十分頑張ってきてる。自分の役目以上のことも。俺が一番それを知ってる。」
ミューはそっとミトラの手から逃れようとするが、力を込められて抜け出せない。
「でも私が居なくなればきっと『アレ』も消える。」
「確証は何も無い。むしろ消えなかった時のリスクが高すぎる。何度も言うようだけど。」
ミューは表情を消した。
「わかってる。どちらにしろ今回の件は解決させなきゃね。リンドアーク王にも助けてもらっているし、ゾルダークを安定させることを第一に考えないと。」
「ミュー・・・」
「そのダダ漏れの怒りと必要のない色気は早くしまって!とにかく無茶はしないから。アレイディアの件もミトラの判断に必ず従う。」
目を閉じるようにミトラから視線を外し、手をすっと引き抜いた。
ミトラの目が何を語っているか、見えなければ無いのと同じこと。ミューはそのままその日一度も、ミトラと目を合わせることは無かった。