作戦会議②
「つまり何が言いたいかというと、私が『赤き剣』に入って実際に調査をしたい!ということなの。ゾルダークに潜入して調べるなら諜報のプロと共に徹底して調べないと!」
資料を元にゾルダークの現状、政治、経済、文化、地理的特徴などあらゆる情報を共有し合った後、キラキラと瞳を輝かせながらこう語るミューに頭を抱えながら、ミトラが王に補足にならない補足情報を伝える。
「いえ、この方は頭は切れる方ですが面白いことが見つかると途端に気楽になるというかちょっとアホっぽくなるというか普段は割とアホなのですがまあですので『赤き剣』の諜報員の一人としてゾルダークに入国し、『アレ』のありかと組織の全容を探りたいと仰っています。」
「・・・あまりにも酷い言いようで驚くわ。要らない情報をどうも。」
ミューの冷たい視線を手で払うようにしてミトラが続ける。
「赤き剣の中に優秀な女性諜報員がいるとの噂を耳にしました。まだお若いようですが、女性であればモーラ様も一緒に行動しやすいのではないかと。」
リンドアーク王は二人の気安いやりとりに少し放心していたが、気を取り直して質問に答える。
「いや、今我々のところには女性の諜報員はいないはずですが・・・ああ、もしかしてアレイディアのことかな?」
「そのようなお名前だったと記憶しておりますが。」
「ああ、やはり。確かに「彼」はよく女性として動かすことがありますが実は男性なのです。大変見目がよく、筋肉質ですが細身の身体を活かして女性にも見えるよう訓練されております。任務の内容によっては便利でね。」
ミューはあらと困った顔でミトラを見る。
「それは・・・私の情報不足でした。女性であればモーラ様をお任せしても安心と思っておりましたが、残念です。という訳で今回の潜入作戦は練り直しですね。」
生き生きと作戦を却下するミトラを無視してミューが提案する。
「ではそのアレイディアという方、その方の下で働くというのはどう?もちろんあなたの命で仕事を割り振ってもらって。」
「モーラ様、それは・・・」
「いいでしょう。確かにアレイディアであれば適任です。彼はまだ若いが、少年の頃からこの任務に就いているので経験も強さもある実力者です。付け加えるならば彼は私の信頼できる甥ですので、ご安心ください。」
ミトラが真顔になる。この顔は本気で不機嫌な時だ、とミューは身構えた。こうなった後のミトラは始末に追えない。
「ミトラ。もちろんあなたの意見をなによりも尊重するわ。でもこのチャンスを逃したくないの。ゾルダークの王にまで関わるようになったということはそれだけ実力をつけてきている証拠でしょ?禁忌の力を使っていることを大っぴらにしてもいいと彼らが判断する程に。」
ミューがほんの数分前までに見せていた気安い様子は影を潜めていた。
そのままじっとミトラを見つめていると、ミトラは張り詰めていた空気を緩めるように大きく息を吐き出した。
「わかりました。ですが本当にモーラ様をお任せしていいのかの判断は実際に会ってさせていただきたい。それとこれは当然ですがモーラ様の素性は一切彼にはお伝えできません。つまり彼の目の前で大きすぎる力は使えない。かなりの制限がある中で行動する必要があります。それでも、宜しいですか。」
疑問形にもなっていない問いかけはもはや問いかけではなくただの確認、いや脅迫だ、とミューはじっとりした目をミトラに向けた。
「わかりました。あなたの言う通りにしましょう。ではリンドアーク王、アレイディアとあなたの国でお会いしたいので内密に場を作っていただきたいわ。いかがかしら?」
王は二人のただならぬ雰囲気に飲まれて顔を引き攣らせていたが、ミューの問いかけに何とか「承知いたしました」と答えて笑顔を向けた。