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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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二人きり

 峠の頂上に着く少し前。ベルミアに貴重な果物だという皿を手渡され、ミトラは嫌々ではあったが、彼女が同席してのお茶会が始まった。


(アレイディアが調子に乗って彼女を近付けるから、余計面倒なことに・・・)


 ベルミア自身はミトラの横で楽しそうにしていたが、彼女がひたすら自分のことを話すかミトラのことを質問するばかりで話は弾まず、ミューは苦笑いをしながら食事の片付けに行ってしまった。



 その後、穏やかな車内で三人はウシュナの日記について話した後、峠の頂上付近にある休憩所で、二回目の休みを取った。


 車を降りてすぐにまたもやベルミアが現れ、ミューと過ごす時間を奪われる。彼女から質問責めにあっている間に、ミューとアレイディアはコソコソと何かを話し、彼は一人でどこかへ行ってしまった。


 ミューは一旦車に戻っていたが、しばらくして出てきてキョロキョロと辺りを見回してから、休憩所の周辺を歩いていった。



 一人になった隙にミューを追いかけて移動すると、建物の裏に回る前にまたしても、ベルミアに引き留められる。


(これはいい加減釘を刺さないとダメだな)



「あの・・・ミトラ様、大事なお話があるのですが。」


 ベルミアが早速仕掛けてくる。上目遣い、赤い頬、重ねた両手。どれをとっても、ただ面倒だ。


 この手の女性にはこれまで何十人、何百人と遭遇しているが、ほとんどは外見の良さに惹かれて、という理由だった。自分の外見が恵まれているかどうかなど、ここまでの年月を生きてしまえばもはやどうでもいい。


(ミューが好きでいてくれればそれでいい)



「・・・はい、何でしょうか。」


 ミトラは冷たく見下ろす。


「あ、あの、私、最初にお会いした時からミトラ様のこと・・・ああ、これ以上は言えません!」


(言えないんじゃなくて、俺に言わせたいんだろうな)

 より冷静になっていく思考に、ミトラは自分でも驚くほどだった。


 ベルミアは胸元から、青く透明な輝きを持つ石のついたペンダントを取り出し、その石の部分を指先で持ち上げた。


「ふふ、ミトラ様・・・そんなに私に惹かれてしまいますか?そんな熱い目で見られたら私・・・」


 ミトラは彼女のペンダントを一瞥すると、いきなりベルミアを壁に押しやった。左手を壁に突き、右手でそのペンダントヘッドを奪う。


「ミ、ミトラ様・・・」


 ベルミアはミトラが醸し出す色気に、何かを期待して目を潤ませている。


「ベルミアさん、これ、何か良くない力が使われてるね。」

「!」


 ベルミアの顔が一瞬で青ざめる。


「へえ、こんな物を使って、男好きするような格好で、狙った男を惑わそうとしてたんだ。」


 ミトラは大抵の人が顔を赤らめてしまうような妖艶な微笑みで彼女を追い詰め、耳元で囁いた。


「その程度の色気で、しかもそんな変な力まで借りて俺を落とそうとは・・・俺も随分軽く見られたもんだな。その力を使っても、俺を惹きつけるような魅力なんてあなたにひとかけらも見当たらないけど?」


 ベルミアがそのあまりの言葉に、怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。



 そしてミトラは、羞恥で固まった彼女をその場に置いて、ミューを探すため歩き始めた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 洞窟を抜けたミュー達は、現在地がわからず途方に暮れていた。バングルは、食事の片付けの際に一旦外し車に置いてきてしまったため、ミトラとも連絡が取れない。


「ミュー、どうする?今日はここで野宿するか?」


 ミューは、アレイディアの言葉に困った顔でため息をつく。


「そうね、もう日が暮れそうだし、ミトラが探しにきてくれるのを待つか、明るくなってから移動する方が賢明よね。」


 アレイディアは頷き、近くの別の洞窟を見つけて、人気が無いことを確認した上で夜を明かす準備をした。ミューもできるだけここが見つからないよう、天力で隠しておく。


 洞窟の入り口付近で集めてきた小枝にアレイディアが火をつけ、食事は諦めたがミューがたまたま水だけは持ってきていたので、それで何とか凌いだ。



「ミュー、さっきの話だけど」


 アレイディアの声は少し強張っている。


「うん。ああ、ごめんね、あれはもう忘れて!変な話だったし、そもそもアレイディアに相談するようなことではなかったよね。ごめんね。」


「・・・」


 ミューは少し長めの小枝を、パチパチと爆ぜている火の中にそっと差し込み、そこからほんの少し離れて、平らになっている広い岩場に、膝を抱えるようにして座った。


 暗くなってきたその場所で、少し遠ざかった炎がミューの顔に微かに揺れる陰影を映し出し、アレイディアはその美しさと彼女自身が持つ光と影を思い、限界を越える。


「アレイディア!?」


 アレイディアは、膝を抱えたままのミューを横から強く抱きしめた。


「ミュー、そんな顔をしないでくれ!俺は君があいつと幸せでいる限りもう手は出さないつもりだった。なのにそんな、あいつのせいで弱っている君を、俺が放っておくなんてできる訳がないだろ!!」


 ミューが慌ててアレイディアを突き飛ばす。その勢いで彼女自身も後ろに片手をついて倒れそうになる。


「やめて。私は・・・!」


 アレイディアはそのまま彼女に覆い被さった。倒れ込む彼女の上で、地面に両手をつきその中にミューを閉じ込めた。


「アレイディア?」


「・・・」


 ミューの灰色の瞳が潤む。こんなに綺麗な瞳の女性が他にいるだろうか。



「ねえ待って!?」


 唇が触れ合う寸前で、アレイディアは動きを止めた。



「ミュー、愛してる。せめて今は、抱きしめさせて。」


「アレイディア・・・」



 地面に転がったまま、アレイディアにそっと抱きしめられる。ミューはアレイディアの腕の中で、しばらく動くことができなかった。


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