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星降る夜に君の願いを  作者: 雨宮礼雨
第二章 過去への旅立ち編
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揺れ動く心

 ミューはふらふらとどこかに歩いていってしまったアレイディアがなかなか戻ってこないので、一人で休憩所の周囲を探し回っていた。


(おかしい、こんな場所でそんなに遠くに行くはずがない)


 次第に不安が高まり、一度ミトラに相談しようと、車のある場所まで戻ろうとした時、そこで目を疑う光景を目撃した。


 休憩所の少し横、建物と周囲の木々の影になって見えにくい場所で、ミトラがベルミアの首元にあるペンダントのヘッド部分を右手に持ち、左手を建物の壁に押し付けた状態で彼女に迫っていた。


(え・・・?)


 二人が何を話しているのかまでは聞こえてこない。だがその態勢のまま、ミトラがベルミアの耳元に近付き、何かを囁いた。


(どうして・・・)


 ベルミアはその瞬間、顔を真っ赤にしてミトラを見上げた。


 その顔をそれ以上見ることも、二人のその先を見ることも恐ろしくなり、ミューはそっとその場を逃げるようにして離れる。



(今は忘れよう。何か事情があるのかもしれない。それよりアレイディアを探さなきゃ!)



 無理やり今見た光景を頭の隅に追いやって、アレイディアを再び探し始めた。細い獣道のような物を発見し、もしかしてと思いその先にある低い崖の下を覗く。


 誰もいない。


 でも・・・


 何かが落ちた形跡がある。そしてその横には大きな車が横倒しになっているのも見えた。


 ふと気配に気づいて振り返ると、数名の男性が武器を手にミューを取り囲んでいる。



「誰?私に何の用?」

ミューは警戒しながら声をかける。


「お前も下の車を見たんだな。おい、あの男と一緒に牢に入れておけ!あと早くあれを処分しろ!」


 黒っぽい布で顔の下半分を覆い隠した男達の一人が不穏なことを言い出す。


(あの男ってアレイディアのこと?そうだとしたら今は黙ってついていく方が得策ね)


 ナイフや短い槍のような武器を突きつけられたミューは大人しく覆面の男達に従い、目を布で覆われ、後ろ手に縄を縛られた状態でどこかへ連れていかれることとなった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「・・・いてて」


 アレイディアが腕や足の痛みで目が覚めると、そこはかなり暗い、洞窟のような場所だった。目が慣れても奥までは見えないが、おそらく壁になっているのだろう。風も無い。


 目の前は太い金属の棒が天井から床まで何本も突き刺さり檻のようになっていて、そのうちの一部に同じ金属で小さなドアが取り付けられている。鍵はしっかりかかっていた。


 『熱』で溶かすことも考えたが、うまく動けない状況で金属を溶かすのは危険が伴う。とりあえず今は体力回復と現状確認を優先させた。


 

 すると少し遠くから数人の男達の声と足音が聞こえてくる。起きているのがバレると厄介かと思い、元居た場所に同じ姿勢で寝転んだ。急いで寝転んだ衝撃でかなり痛い。



「ほら入れ!ここしか無いからな、男と一緒だが諦めて大人しくしてろよ!」


 野太い声の男が何やら喚いてドアをガシャン、と音を立てて開き、もう一人の誰かが洞窟の牢の中に入ってくる気配を感じた。



 男達が立ち去る音が聞こえ、再び牢の中に静寂が訪れる。



「起きて、アレイディア!」


 小さな声、女性の・・・ミューの声のように聞こえる・・・



「ミュー!?ううっ・・・」


 飛び起きようとして身体中の痛みに呻いた。


「アレイディア、怪我してるの?ちょっと待ってね。」


 ミューはすぐにアレイディアに近寄ると、急激なとても強い力で『治癒』をかけた。痛みに強いアレイディアが呻くほどの痛みが、瞬時に消え失せていく。


「すごい・・・ミュー、ありがとう。」


 アレイディアが微笑むと、ミューも微笑みを返した。


「さ、じゃあ帰ろうか。」


 ミューはついていた膝の埃をパッパッと払い、アレイディアの手を取って立ち上がらせた。


「それって本来俺の役目じゃない?」

「ええ?どちらでもいいじゃない!された方はちょっと嬉しいでしょ?」


 ミューがお茶目な顔で笑う。



(ああ、やっぱり好きだな、彼女が。)



 ドキドキする気持ちも、愛おしいと思う気持ちも、覚悟を決めても忘れようとしても、そばにいる限り膨らんでいくばかりだ。


(でも、付け入る隙はもう本当に無いんだな)


 先ほどのミューとの会話でアレイディアはそれを痛感した。ミトラは彼女のことしか見えていないし、言った通り手放す気はないだろう。そしてそんなあいつをミューは心から信頼している。


(始まりから出遅れていて、もうどれだけ走ってもあいつには追いつけない)



「ねえ、アレイディア。こんなところで言うのも変な話なんだけどね。」


 突如ミューがアレイディアに話しかける。


「うん?」

「さっきね、アレイディアを探している時、ミトラがベルミアさんにすごく近付いていて、耳元で何か囁いてるのを、見ちゃったの。」

「え・・・」


 ミューが泣きそうな顔で笑顔を浮かべている。


「何か事情があるんだろうってわかってる。さっきあんな話をした後で恥ずかしいんだけど、彼のああいう姿を、他の女性に向けられた姿を初めて見てしまって・・・動揺してる。どうしよう、こんなに自分の気持ちを整理できないなんて思ってなかった・・・」


 アレイディアは抱きしめたい気持ちをグッと堪えて、「外に出てから話そう」と言ってミューの手をとった。


(もしかして、まだ、間に合うのか?あいつに、追いつけるのか?)


 ミューはアレイディアの提案に小さく頷いてから、小さな声で何かを呟くと、驚くほどあっさりと金属の棒を二本ほど消し去った。


 アレイディアは何も見なかったぞと自分に言い聞かせながら、あり得ない出来事を目撃した自分を誤魔化しつつ、洞窟を脱出した。


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