私の彼氏はシャバ中で「シャバの空気はうめえ!」が口癖です
今日は日曜日、彼氏とデート!
彼とは駅前で待ち合わせてるんだけど……あ、いたいた。
「おはよー!」
「よう、マユミ」
彼氏の名前は鬼瓦竜二。
顔に傷のあるコワモテで、頭はリーゼント、体つきもがっしりしてる。どこからどう見てもドチンピラ。だけど心はとっても優しいんだから。
そんな彼の口癖は――
「シャバの空気はうめえ!!!」
これだ。
念のため説明しておくと、シャバってのは元々仏教用語なんだけど、今は刑務所だとかの外の世界を指す言葉なの。彼はシャバが大好きでいつもこんなこと言っている。シャブじゃないからね。間違えないでね。
「さ、シャバをデートだ。行くぜえ!」
「うん!」
駅前の騒がしい街の中を竜二と歩く。
竜二のコワモテのおかげで人が勝手に避けてくれるから快適だけどね。
「シャバを歩くってのはいいもんだァ! 空気がうめえ! なぁオイ!」
竜二は楽しそうに笑った。
5分ぐらい歩くと、映画館があった。年季の入ったいい雰囲気の建物だ。
「おう、シャバの映画っつうのはどうだァ!?」
「いいねえ、映画!」
私ももちろんオッケーした。
映画は好きだし、まして大好きな竜二と見られるなんて最高だもん!
***
私と竜二が見たのは『鮮血の乱れ桜』って映画。
一言でいうとヤクザ映画ね。
出てくる俳優さんはみんな竜二みたいなコワモテばかり。演技力も凄くて、迫力満点!
「やるんかゴラァ!」
「上等じゃコラァ!」
互いに猛獣みたいに吼え合って、拳銃を出し合い撃ちまくる。
「うらぁぁぁぁぁっ!!!」
――パンパンパン! ドンパンパン!
私、夢中で見ちゃった。もうサイコー!
映画が終わっても私の興奮は冷めなかったけど、竜二はというと青ざめてた。竜二って顔のわりに案外こういうの苦手なんだよね。
「どうだった? 竜二」
「シャバの映画ってのも……いいもんだ」
***
映画館を出たらちょうどお昼の時間になってた。
「マユミ、シャバの飯でも食わねえか?」
「うん、行こう!」
近くにあったファミレスに入る。
席に座ってメニューを決める。
「私はハンバーグステーキ!」
「んじゃ俺は……シャバのエビフライとでもしゃれ込もうかい」
呼び出しボタンを押したけど、店員さんがなかなか来ない。
忙しいからなんだろうけど、私はあまり気は長くない。もう一回ボタンを押そうとする。
すると――
「短気はいけねえぜ。こういう時はシャバの空気を吸ってじっくり待つもんだ」
「うん、そうだね」
「シャバの空気はうめえ!」
ハンバーグとエビフライがやってきた。
「おいしそ~!」
「ふん、シャバフライをいただくとするか」
融合しちゃってるよ、竜二ったら。
私らが食べ始めると、ちょうど同じタイミングでメニューが届いた隣のおじさんも食べ始めた。
そこからが最悪だった。このおじさん、いわゆるクチャラーだったわけ。
クッチャクッチャと音を立てながら、魚の煮つけを食べている。せっかくのデートが台無し。イラッときて、私は食器を両手に持ったまま席を立つ。
「やめとけマユミ。あんなシャバのオヤジは俺に任せろ」
竜二はおじさんの方を睨んだ。
「おっさん……シャバではもうちょい静かに食ってくれねえか」
一発だった。竜二のコワモテにビビったおじさんは音を立てるのをやめた。竜二かっこいい~! 惚れ直しちゃう!
***
食事をしたらショッピング!
オシャレなブティックで洋服を吟味する。
「ねーねー竜二!」
「ん?」
「この白いスカートと黒いスカート、どっちがいいと思う?」
「シャバのスカート……お前には両方とも似合うんじゃねえか。綺麗な足してるしよ」
出た。どっちも似合う。
竜二からすれば誉め言葉のつもりなんだろうけど、私はこういうどっちつかずの答えは好きじゃない。
「もう! 竜二なんて大嫌い!」
私が怒ると、竜二が慌てる。
「白だ、お前には白が似合ってる」
「ホントぉ?」
「ああ、ホントだ。もう片方は今のお前にゃ相応しくねえからな」
ニヤリと笑うと竜二は白いスカートを買ってくれた。
ホントは黒いのも欲しかったけど我慢する。
ありがと、竜二。
***
色々店を巡り歩いてるうち、夕方近くになった。
「よーし、ゲーセンでも寄ってくかァ!」
「さんせー!」
二人でゲームセンターに入る。
店の中には私たちみたいなカップルや、いかにもオタクっぽいグループ、中には親子もいた。店員さんは忙しそうに駆け回ってる。
お金を入れてクレーンゲームをやってみる。今人気のあるアニメキャラの人形を取りたいんだけど……。
「なかなか取れな~い!」
「シャバのゲームはむずいんだな」
「もうー!」
私はバンバンと筐体を叩く。蹴りも入れる。
「落ち着け、俺が取ってやる」
「え?」
選手交代。竜二は真剣な眼差しでクレーンを操作する。
そして、あっさりと私の欲しかった人形をゲットしてみせた。竜二、すごーい!
喜んでると、声が聞こえた。
「おい……ちょっと金出してくれよ」
「も、持ってません……」
気弱そうな男の子が金髪の不良に絡まれてる。店員さんはあいにく見当たらず、周囲は誰も助けようとしない。こんな明るいゲームセンターでもああいう事する奴がいるんだね。
よぉし、私がブン殴って助けてあげるか!
――と思ったら、竜二が出てくれた。
「ああいうシャバ僧は俺が懲らしめてやんよ」
ずかずか歩いていく。
「おいてめえ、んなことやってるとシャバにいれなくなんぞ?」
ギロリ。
このひと睨みだけで、カツアゲしてた不良は逃げてった。竜二、サイコー!
***
夜になり、手をつなぎながら歩く。竜二の手はあったかい。心と同じぐらいあったかい。
「シャバの空気うめえ! シャバの夜もいいもんだな」
「竜二……今日も色々ありがとね」
私はお礼を言った。
「映画は私の好みに合わせてくれたし、私が他の人にムカついた時はすかさず出てくれたし……」
「いいってことよ」
私は前科者だ。
カッとなってやった傷害で何度も警察のお世話になってて、刑務所に入ったこともある。今日も危ない場面がいくつもあった。そのたびに竜二が防いでくれたの。
竜二の顔の傷も、暴れる私を止める時にできちゃったもの。
しつこくシャバシャバ言ってるのは、私に『シャバはいいところだぞ』『二度と刑務所なんて入るなよ』って戒めるためでもあるんだ。
「じゃ、シャバの夕飯でも食って帰ろうぜ!」
「うん!」
ありがと、竜二。私、頑張るからね。ずっとシャバにいられるイイ女になってみせるからね。
完
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