第十話
隠れて様子を見ていた蓮は、始まった戦闘に焦りを覚えていた。
魔法の修行を始めるにあたって最初に始めたのは魔力を感じ取る訓練。
ルーに手伝ってもらい、今では目視できる相手の魔力の大きさは感じ取る事が出来るようになっていた。
自分達を探していると言う男の魔力は、現状、最高戦力であるルーに匹敵するほどだ。
もちろん戦いは魔力量だけで決まる物ではない。
だが、大いに影響する事は間違いない。
クロとメデュアの二人では厳しいかもしれない。
それに、やっと見つけた人間だ。
自分達を探している理由に見当は付かないが、話をしないと後悔する。
そう思った蓮は、すぐにその場から駆け出した。
「まっ!まって!」
今まさに攻撃を再開しようとした男は声をかけてきた蓮を見て、警戒しながら言葉を返す。
「あぁ?なんだてめぇ……って、あの時のガキじゃねぇか。一緒に居た羽野郎はどうした?(あの時はあの亜人種しかちゃんと見てなかったが、なんつー馬鹿げた魔力してんだこいつ。その割に戦闘経験は無さそうだが……。チグハグ過ぎて気味悪りぃ……。)」
隠れていたはずの蓮が飛び出してきた事に驚きつつも、クロとメデュアは蓮の少し前に陣取った。
蓮はその事には何も言わず、攻撃を受けていたクロに回復魔法をかけて、話を続けた。
「やっぱり、探してるのって僕とルーの事だよね?何処かで会った事、あるのかな?」
「あぁ、ルーってのが女帝蜘蛛を殺った奴ならそうだ。それに、俺に見覚えがねぇのは当たり前だ。あの頃とは姿がちげぇからな。……で?そのルーってのは何処にいる?」
どう答えようかと蓮は思案する。
女帝蜘蛛が誰の事かは分からないが、今まで倒してきた魔物の中にいたのだろうか。
だが、姿が違うとはどう言う事なのか。
この世界の人間は姿を変えることが出来るのだろうか?
ここは魔法がある世界だ。
そんな事ができてもおかしくはない。
そもそも何故自分達を探しているのか。
次々に疑問が湧いてくる。
「質問しても、いいかな?」
「あぁ?いい訳ねぇだろ。さっさとあの羽野郎の居場所吐きやがれ!」
ダメ元で聞いてみたがやはりダメだった。
何もわからない現状、返す言葉は決まっている。
「嫌だ!教えない!理由も解らないのに教えてなんかやらない!」
「……なら、いいや。お前を餌にして釣る事にする。」
男が言い切ると同時にその場で両腕を前に振るうと、男の側に倒れていた木が猛スピードで蓮達に向けて飛んでくる。
クロは蓮の前に飛び出しその木を弾き飛ばし、メデュアは氷の礫で男に攻撃を仕掛ける。
「おいおい、さっきも見たぜそれ……」
男は両手に持つニ本の槍を振るい飛んでくる無数の礫を弾き飛ばす。
「「「グラァァァァァァ!!」」」
「——っ!!」
礫の奥から紛れるようにクロが飛び出して前脚を振り下ろす。
振り下ろされた前脚は激しい音と共に地面を陥没させるが、そこに男の姿は無い。
「それだよそれ!おもしれぇ!」
視線を巡らすと、近くの木の上にいた。
すぐにメデュアは魔法を放つ。
それはまたもや氷の礫。
が、次の瞬間、礫はぐにゃりと変形し、無数の氷蛇へと姿を変え、まるで生きているかのように男へと襲いかかった。
男は氷蛇の群れを避け、地面に降り立ち、メデュアに向けて走り出す。
「オラァッ!!」
突き出された槍はメデュアの胴体を貫いた。
パキッ
パキパキッ
メデュアだった物は氷へと変貌し、貫かれた箇所から男を侵食していき動きを止める。
「チッ!!」
男は一つ舌打ちを打つとすぐに抜け出そうとするが足元から火柱が吹き荒れた。
メデュアとクロの連携に、蓮の支援を重ねた会心の攻撃。
やったか?と3人は身構えながらも燃え盛る火柱を見つめる。
「今のは流石にヒヤッとしたぜ。でも、もう準備は整った。」
網のような白い糸が3人を襲い、そのまま地面に縫い付けた。
よく見ると周りの木々の間を細い糸が張り巡らされている。
「キシャッ!捕縛完了ってなぁ!」
「ク…クロ……、メ…デュア……」
「「「グ…グルルル……」」」
「シュロロロ……」
体が痺れて動かない。
「クックック……。その糸には即効性の麻痺毒を仕込んでる。動けねぇだろ?悪りぃな、こっちが本業なんだわ。」
クロもメデュアも必死に体を動かすが、その度に糸が食い込み毒が入り込む。
「さて、このガキは連れてく。あの霧まみれの森の洞窟で待つって羽野郎に伝えてくれ。頼んだぜお二人さん。」
男はそう言うと、糸で拘束した蓮を担ぎ上げ、毒沼の森の方に戻っていった。




