22 「悪魔の果実」って何ですか? 1
「しかし、気候を変えるほど、大量に油を燃やすのか……。まったく想像がつかんな。魔法でも使うならともかく、ただその“石油”とやらを燃やすだけで、気候が変わるものなのか」
ヴィネ様は、私の説明に対して理解が及ばないといったように首を捻った。
「“自動車”に関しては環境に配慮して、電気自動車が導入され始めていましたが、私が暮らしていた国では、その電気自体が石油から作られることも多く、環境問題に関しては、まだまだ課題が多かったと記憶しています。石油以外の、太陽光、風力や水力を使ったクリーンなエネルギーへの移行が注目され始めていた時代だったように思います」
この世界にも、探せば石油や石炭は埋蔵されていることだろう。
しかし、これらのエネルギーを使用するにはリスクが伴う。もし、電力を開発するなら最初から、太陽光や風力などのクリーンエネルギーの開発に注力すべきだろう。
もし、アヴァロニア王国に石油が埋蔵されていたとしたら、そして石油を使う術をこの世界の人たちが知ったなら……、おそらくこの世界の勢力図は大きく変わる。
前世において、産油国は資源を持たない国へ原油を輸出することで莫大な富を得ていた。
しかし、そのようなやり方でアヴァロニア王国が聖カトミアル王国を圧倒することができたとしても、おそらくヴィネ様は喜ばないだろう。
もし、資源の輸出で勝負したいのであれば、金や銀などの採掘に力を入れた方がいい。
また、聖カトミアル王国の国土に化石燃料が埋蔵されていないことを祈るばかりである。
ジャンのような、自己中心的な人物が化石燃料とその使い道を手にしてしまったら──想像するだに恐ろしい。おそらく、この世界は滅びへの一途を辿るに違いない。
「やはり便利なだけではなく、弊害があるのだな。たとえ民の生活が便利になると言われたとしても、この世界を壊すような進化なのであれば、取り入れる必要はないと私は思っている。この世界の、山にも森にも、湖にも、どこにでも神は宿っているのだ。自然が壊れたら、神がおわす場所がなくなってしまうではないか」
案の定、ヴィネ様は環境破壊といった方向性はお望みでないようだ。
「ええ、おっしゃる通りかと私も思います。できるだけこの世界の環境に配慮した形で、かつ民も便利に豊かに暮らせる方向が望ましいのではないかと」
私たちは、農業だけではなく、社会全体に関わる問題について、議論を重ねながら、農地を見て回る。
ふと、畑の隅に置かれた作物に目が止まった。
「あれは……? ジャガイモも栽培しているのですか?」
畑の隅に、ジャガイモらしき作物がひとまとめに置かれている。
前世の世界において、確か、ジャガイモは南米の高地が原産の植物だったと思う。ヨーロッパに伝えられたのは大航海時代以降だったはずである。
この世界は、中世ヨーロッパをモデルにして作られたと思われる世界だ。
しかし、寒冷地にも強い作物であるジャガイモが、もう既に伝わっているのであれば、農作物に関してはさほど心配する必要がないとも言える。
たとえば、前世で暮らしていた日本でも、ジャガイモは、国土の最北に位置している北海道の名産品として有名だったはずだ。
それなのに、なぜセパルは「北部では農作物があまり育たない」などと言っていたのだろう。
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