#01
今年でとうとう高校3年生になった俺は、現在これからの学校生活において窮地に立たされている。
「先輩、はい、あーん」
正直、周りからの羨望と嫉妬の眼差しが身体中に刺さっている感覚がして痛い。周りからの圧に気圧されて俺は仕方なく彼女からのあーんを受け取る。普通にめっちゃ美味しい。
「先輩、どーお?美味しい?」
などと上目遣いで聞いてくる。周りの眼差しが心なしか強くなる。仕方がないので
「まぁ、それなりに美味しいよ」
とでも返しておく。
「よかった!じゃあ明日も先輩のためにお弁当作ってくるね!」
と満面の笑みで俺に言い返す彼女。周りから殺意としか思えない程の怨念すら感じる。正直彼女には自分の人気と影響力を自覚して欲しいものだ。
男子の中で学校1の美少女と噂される後輩の桐谷六花に懐かれるようになったのは、高3に進学した春のことだった。うちの高校はかなり緩めの進学校(自称)なので同学年の生徒の4割が受験勉強で忙しい生活、5割が今年で最後の部活の為の忙しい生活、そして俺のような残り1割の生徒はそのどちらにも属さない陰キャだったりコミュ障だったりと。
ある日、俺はいつもの如く放課後の余った時間に学校近くのスタバの1人席で課題をやったりゲームをしたりして時間を潰した後、店を出て事情あって一人暮らししている学校近くのアパートに帰ろうとした。すると自分の前に明らかに陽キャと思われる女子4、5人の集団に遭遇した。陰キャを拗らせた俺は特に気にしなかった。しばらくするとその集団から1人
「じゃあ私家こっちだから、じゃあね〜」
と俺と同じ方面に曲がった女子がいた。何故か俺は、彼女の笑顔にどこか曇ったような印象を持った。それからしばらくたったとき、突然彼女がそのばでバタッと倒れた。流石に俺は動揺し駆け寄って話しかけたり揺さぶったりしてみたが全く起きる気配がなく、俺は取り敢えず彼女をどこかに寝かせなくてはと思ったが
かなり動揺していたせいかどこに寝かせればいいか考え付かず結局、自分の家で寝かせることにした。今考えてみれば年頃の高校生が自分の家に気を失った女の子を寝かせるのは相当まずいとは思うが、その辺の道に寝かせるわけにもいかないので俺の強固な理性を信じるしか無かった。俺は自分の家のベットに彼女を寝かせた後、一応近くのドラックストアで風邪薬やら栄養ドリンクやらゼリーやらを買ってきた。一人暮らしも長く、それなりに料理もできるためおじやも作っておいた。そうしてしばらく看病していると、彼女の意識が戻った。
「あれ…私…ここどこ…?」
「やっと目覚めたか。道で突然倒れたから俺の家に運んできた。お前大丈夫か?」
起き上がった彼女は目の前の机に並んだ薬やおじやに気がついたようで、
「机のやつは適当に食べてけ」
と言うと
「あ、ありがとう…ございます…」
と言っておじやを食べ始めた
「えーと…あなたは誰ですか?」
「俺は3–1の相川佐久だ。お前は?」
「2–2の桐谷六花です」
「そっか。お前があの…」
「な、なんで私のこと知ってるんですか!」
「いや、お前、かなりの有名人だし」改めて彼女を見回してみる。うんかなりの美少女。実に男子にモテるであろう容姿。少し知的っぽくて身長は俺より少し小さい160センチ程。見るからに世間一般で言われる清楚系美少女JKのようだ。
「あの、私、ただの貧血で…」
そういう彼女の顔にはいつか見た曇りを感じ取った。俺は家庭の事情でそういった負の感情に敏感なのだ。そういうのははっきり切り捨てる性分なのだ俺は。良くも悪くも。だから俺は彼女に対しても切り捨てるように、そして核心を突くように簡潔に言った。
「お前さ、無理して人前で笑顔作ってるよな。偽物の自分でも作ってんの?」
案の定、彼女は詰まったような顔をした。
「なんで…そう思うの?」
「そんなことどうでもいい。いいか?偽物の自分を演じて無理して倒れたら元も子もないぞ。お前は効率が悪い。そのくらいの偽物ならいっそ素のままの自分を貫けよ。」
俺の説教にも似た切り捨てを聞いた彼女は納得したのかそのまま礼を言って俺の家を後にした。1人残った家で俺は皮肉気味に呟いた。
「…これが偽物で作り上げた虚像の言い分かよ…」
この時の俺はこの後起きることを全く予想出来なかった。
#02に続く