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闘う者たち  作者: 音澤 煙管
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『 操作 』

人間の言語を話す野良猫が現れた。



おとぎ話や夢の世界を見ていると思われてもこれが現実だ。ましてやこんな日がいつかは来るのではないか……とさえ心の準備はできて居たからだった。わたしが獣医師になろうとしたきっかけも幼い時に、道端で見かけ怪我をした野良猫を動物病院へ連れて行き、そのまま保護して飼い猫として同居していたが、同じ人間より何となく意思疎通が出来ている変な気がしたからだった。わたしは、幼い時から口下手で自己主張に乏しい性格だったから、話せない動物たちと同じような生き物だと思い込んでいた。人間にとって言葉は、たまに誤解の原因や邪魔だと思うようになっていた。面倒とかでは無いが、人の意思に反した言葉を受けそれを信じて何度も人間には裏切られていたからだ。

動物たちは裏切りったり騙したりはしない、愛情を持って接すれば意思疎通が出来るし、人間のように腹黒い動物なんて他には見たことがない。この仕事の患者は皆動物だ。

同行してくるのは人間なだけだ、飼い主と称して。中には酷い飼い主もいる、治療に預けて捨てたも同然に迎えに来ない人間だ。

人間と動物とを考えるには良い仕事と思って、開業して悔いはない。

しかも今、目の前に意思疎通だけではなく、わたしたち人間と同じように言語を声で話す猫が居る、それが現実だ。


動物と意思疎通を備えたわたしは、この野良猫を治療しながら動物たちのプロジェクトの進行状況を聞いた。どうやら一ヶ月後には世界一斉で対人間戦争を行うらしい。

兵器や武器は、密かに人間の物で準備をし訓練も続けていると言う。しかし、それはダミーで脅すためのもの。人間を降伏させるための道具に過ぎない。理念と信条も聞いたので、わたしの今は、この動物たちへ唯一協力できる事として強力な麻酔薬を提供する約束をした。これなら、人間を殺さずに済むしいくら武装した人間でも抵抗出来ずに降伏するだろう。

必要ならば、麻酔銃も獣医師会へ届け用意させるようにした。

まだ他にはないかな?と、刻々と時は流れ反逆戦争が実行される日が近づく。


あ、そうだ!一つ閃いた事があった。

世界的大規模戦争の後、メーカー発案の人間用超小型ハードディスクへのメモリを利用しようと考えた。開院して空いてる時間に自らのメモリをプログラム解析して、内容は把握していたし、中学生レベルのパソコンのスキルで書き換えは可能だが、一つ間違えれば悪魔のメモリと化してしまう。

これに、細心の注意をはらい患者の野良猫が言う動物の信条と理念、動物たちの生きる権利をプログラムし上書きすれば良い。

わたしのような、理念が無い人間でもこれでうまく操作できるはずだ。

ついでに、動物たちがこれから起こすことを阻止したり抵抗しないように制御出来ることが可能なプロジェクトだ!早速、空き時間を利用して入院治療中の野良猫に話をしたら、とても喜んでいた。

猫が笑うところは初めて見たが、そのメモリをどうやって人間管理下を指揮するトップの思考をすり替えるか説得させるかが課題となった。ところが、野良猫が言う……


「あの人の飼い猫は、猫界では有名ですよ。もう、その飼い猫にもぼくらのプロジェクトの話は通ってるはずです。海外なので、そこまで行く時間だけが必要ですね。」


「なるほど。その国の人間なら、先日学会の発表で同行したばかりだ、コンタクトは取れるから、インターネット電話で交渉してみようかな?」


「はい、そうして下さい!是非。」


また野良猫は喜び笑っていた。

そして、ここに居る他の犬猫たちも知っていて喜んだ顔を並べている。


わたしは早速、学会へメールをしてコンタクトを試みた。そして、内心わかっていたように承知してくれた。トップの飼い猫のワクチン接種の時期が間近なのでその時にわたしのプロジェクトを知人に頼み、麻酔で眠らせ催眠療法でトップの脳に直接インプットする計画を立ててくれた。

こうすれば、側近の者たちもトップには頭は上がらず指示に従うだろう。そうすれば、動物たちへの少ないダメージでプロジェクトは成功すると思い暫く野良猫の治療の様子を伺い、時は過ぎていった……それから二日後に野良猫は無事に完治し退院の日を迎えた、この日は反逆戦争実行の1週間前だった。

野良猫は回復したが、連れてきた通りすがりで連れてきた人間とは連絡がつかずこのままでは保健所送りになってしまう。


「さぁ、どうする?わかっていると思うけど……」


「はい、勿論です。ぼくをしばらく居候ささて下さい、まだ伝達の指名も残ってますし、少しの間は往き来する身となりますが……よろしくお願いします!」


「はははっ、どうする?って冗談だよ。好きなだけここに居てくれれば良いし、落ち着くまでは自由行動になるな、こちらこそよろしく!」


「やったー!では、早速集合場所へ、行ってきます。すぐ戻ってきます!」


「はい、行ってらっしゃい!」


野良猫は、元気になり走って仲間の集まる場所へ向かった。また事後に遭わなければいいが、そう思い野良猫を見送った。とその時、学会の知人から院のパソコンへメールが入ってきた音がした。

"ピンポーン、ピンポーン……"


こちらの提案したプロジェクトは順調のようだが一つ問題があるらしい。トップへは予定通り明日にでも麻酔を施して催眠療法を行う予定だが、反逆戦争実行日の前日にならないと側近の一人が戻らないらしい。トップと同時進行しないと人間同士でまた乱れ対立してしまう、それが問題だ、との事だった。取り敢えず明日のトップの様子で、こちらもプログラムを完成させて送信やメモリを配布しなければならない。今日はこの病院で入り浸りだなぁ、と思い動物たち患者の世話と訪れたお客の相手に明け暮れた。

そしてトップの飼い猫のワクチンの当日、わたしはヤキモキしながら病院で学会の知人からの連絡を待っていたが、午後に入りメールが届き予定通り任務完了の知らせが届いた。

側近の一人へも催眠療法は成功した。

もう一人の側近は、トップにも仕込んで違う理由で同じように催眠療法する予定だ。やがて、退院してから二日後あの世話してわたしと協議をした野良猫が来院した。事情を説明すると、


「そうだったんですね!

一応、支部のあちこちに連絡をしていましたが、その連絡も今日中にしておけばぼくら動物たちは動かないように知らせる事が出来ます。どんな状況になるかわからないけど、実行日の寸前まで準備だけは万全によろしく!とは伝えておきましたよ。」


「そうか、ご苦労だったね。

わたしもあらゆる手段でトップはもう思う壺、という連絡だった。それと、トップにも超小型ハードディスクとメモリを埋め込むよう促しておいた、これからは皆んな我々人間全てと君たち動物たちとは平等に暮らせるようになる、昔からわたしの夢だった本当の意味の共存ができると言うことだ。君たちの権利も代表を決めて、国連へ参席してもらうことになるな、と言う学会の知人からの伝言だ、良かったなぁ本当に。」


「……はい!」


野良猫の目からは涙が溢れそうだったが、顔を洗って誤魔化していたようだった。わたしは気付かないフリをして聞いた、


「今日は、これからどうするんだ?」


「はい、またその案件の報告を伝えに出かけないとならないですね。少し休憩したら出かけることにします。」


「そうか。今は大変だけど、片付いて落ち着けたらゆっくりうちのオペ室の窓で日向ぼっこでもしなよ。」


「はい!ありがとう、先生!」


その後、暫くして野良猫はまた出かけて行った。距離的には行動範囲内だが、ここへ運ばれるきっかけとなった途中で事故に遭った道を避けるために用水路の側溝の中を誰にも見られず通ることに時間を費やしたらしい。

事故に遭うとトラウマになるのは人間も猫たち動物も同じなんだろうな。

動物たちの方が利口だが、その分弱い立場になっているこの人間社会の中でビクビクしながら生活している……

野良猫の心配と慈悲の感情と、人間の動物たちに対するこれまでの行いの考えに対する怒りが込み上げてきたわたしだった。その日のうちに、野良猫は帰ってきた。退院から間もなくして出ずっぱりだったので今夜はうちで休めと言い、猫缶を与えた。


「ご馳走さま!はぁー……

お腹いっぱいになったら眠くなりましたぁ、少し休みます……」


「オペ用の台の上にタオルを敷いてあるから、そこでおやすみ。」


「ありがとうございま……す……

ゴロゴロ、ゴロゴロゴロ……」


野良猫は、オペ台の上に移った途端麻酔を打ったかのように直ぐにスヤスヤ寝てしまった。

さぁ、わたしはまだ残されている仕事がある、プログラムの最終チェックだ。これから夜通しで完成させる、いよいよ明日、トップの残りの側近へ麻酔と催眠療法の予定で、人間界の司令塔はこれで全て片付く。わたしも一仕事したら休むことにしよう……

晩になると冷えてくる、もうそんな時季になってしまったかぁ、と思い野良猫へタオルをかけてやりまたパソコンへ向かった。




つづく




計画は果たしてうまくいくのだろうか?

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