君の住む街の天気は
この手紙を読んでいるという事は、私はこの世にいないという事でしょう。これは私の最期の愚痴と思って読んで下さい。
今日の天気どうなっていますか? 私の最期の日は雨でした。天気予報を見たら「晴れます」と言っていたのに……。雨なら雨で最初から「雨です」と言ってくれていたら、こんな憂鬱な気分で最期を迎える事もなかったのに……。
明日その予報士は「分からなかった。晴れる予定だったんですけどね。難しいですね」とでも言っているのだろう。しかし予報する仕事とは不思議な仕事だな。
そんな手紙を見つけた。この手紙が書かれたのは凡そ40年前であり、書いたのは私の祖父だ。文面の「最期の日」と仰々しく書いてあるのが気になり父に祖父の最期を聞いたが大往生だったとの事だった。ならばこの様な手紙を残す程の事でも無いだろうと思いはしたが、まあ祖父にとっては心残りだったという事なのだろう。
40年前には『気象予報士』という名前の仕事であった事に不思議な感覚を覚えた。今現在天気を報道するのは『気象解析士』という名前になっている。
手紙を読んだ後に少し気になり調べて分かった事だが、『予報士』という格好良い肩書きなのに『はずれ』る事が多いという事に対し気象庁に苦情が多くなった事が原因で、あくまでも気象庁が提供する各種天候に関するデータを解析する『解析士』という事になったらしく、人によっては『ウェザーアナリスト』と横書きで名乗っている者も居る。
『解析士』は天候データを解析し予測し発表する。やっている事は過去の予報士と同じではあるが、『予報士』が予報を外していた頃よりも、『解析士』が予報を外す今は過去と比べて苦情が無い位に減ったという。
同時に『イーグルアイ』と呼ばれる解析士に対する格付け制度もされるようになった。
これは気象庁内部の極一部の職員達の非公式の格付けであり、遊び半分に民間の気象解析士を格付けするのに用いていたのが外部に漏れ伝わり勝手に始まったという事だった。意図的に漏らした訳では無いがそれら格付けを行っていた職員は上司から叱責を受けたとSNSを通じて言った事で更に叱責されたらしい。
『イーグルアイ制度』では月間予測、週間予測、翌日予測の正答確率で用いられた。まあ『制度』と言っているが実際にはそんな制度は無く、勝手に『イーグルアイ制度』と呼んでいるだけではある。
1カ月単位で月週日の順に「MWD 00.00.00」という正答率ゼロからスタートする。この時の呼称は『モールアイ(もぐらの目)』と呼ばれた。
解析士は毎日、明日の天気を予測する。毎週末頃、次週の週間天気を予測する。毎月末頃、次月の月間天気を予測し公開する。天気予報はテレビやネットニュースだけでなく、解析士の個人用のネットサイトで公開が可能になり、ユーザーは好きな解析士のサイトで天気を見る事ができるようになった。
正答率についてではあるがあくまでも気象庁の内部で職員が遊びとして考えた物であったので単純な物でもあった。1日を3.3として考え、ひと月は4週間として数える等、計算としては単純なものであった。
3日分だけ、翌月の天気が正解した(10%)。
1週分だけ、翌週の天気が正解した(24%)。
毎日、翌日の天気が正解した (100%)。
MWD102499となり『チックアイ(ひよこの目)』と呼ばれ月、週、日のそれぞれ正答確率がゼロ以上であるのが条件である。
10日分強、翌月の天気が正解した (33%)。
2週分だけ、翌週の天気が正解した (50%)。
13日分だけ、翌日の天気が正解した(43%)。
MWD335043となり『スパローアイ(すずめの目)』と呼ばれ月、週、日のそれぞれで3割を当てなければならない。
22日分、翌月の天気が正解した (73%)。
3週分だけ、翌週の天気が正解した(75%)。
21日分、翌日の天気が正解した (70%)。
MWD737570となり『イーグルアイ(鷲の目)』と呼ばれ月、週、日のそれぞれで7割を当てなければならず、かなりの難問である。
毎日、翌日の天気が正解した(100%)。
毎週、翌週の天気が正解した(100%)。
全日、翌月の天気が正解した(100%)。
MWD999999となり『ダイヤモンドアイ』と呼ばれ毎日翌日を、毎週翌週を、毎月翌月の予測を的中させるという不可能に近い物である。
予測をしなかった場合『はずれ』とみなされ正答率に反映された。
それぞれの格付け名称は翌月からの1ヶ月間用いられる事になり、また翌々月に翌月の結果が反映される。テレビ等で名前が表示されるのと同時に、確率と共に格付け名称も表示された。
又、5か月連続で『イーグルアイ』を維持すると『ゴールドアイ』と呼ばれた。一瞬、ダイヤモンドのが上じゃないのかと疑問に思ったが、ダイヤは人工的に製造が可能であるが純粋な元素であるゴールドの方が価値があるみたいな話だった。とはいっても『ゴールドアイ』より、100%の正答率を求める『ダイヤモンドアイ』の方が不可能な条件と思えた。
因みに『ダイヤモンドアイ』を5カ月連続で維持すると『プラチナゴールデンアイ』と呼ばれるらしい。まさに神の領域としか思えない……。
翌日のみ良く当たる人、週間のみ当たる人、月間のみ当たる人等、それぞれ特色も出てユーザーには高評価を得た。
とはいってもあくまで非公式の適当な物であり、解析士からも計算式について異論や不満があり、ちゃんとした計算式を作って欲しいという声も聞こえた。だが気象庁からすればあくまでも職員の遊びの範疇であり「皆さんが勝手にやっているだけ」という事で聞く耳持たずであった。
AIの発達とともに機械が予測し且つ正答率も高いという事が増えてきたことで気象解析士になる人は急激に減っては来ているが、現時点人間の方が第6感という物を働かせているからなのか、ほんの少しではあるが正答率は上回っている状況である。
そして『気象解析士』の国家試験は今年を限りに終了するらしい。すでに辞めた人も多い。もうすぐ人間の気象解析士は居なくなるのかもしれない。とはいえ試験もこれが最後という事で記念の為に受験しようなんて人が多いらしく問い合わせが殺到しているらしい。
結局、AIを含め『ダイヤモンドアイ』の称号を得た者は未だに現れてはいない。
現在私は『イーグルアイ』。史上初の『ゴールドアイ』の最有力候補となっている。
2019年 11月27日 2版 句読点多すぎた
2019年 03月09日 初版