最終話 終わりなき戦い
それから2年が過ぎた。
2年前の俺は勇者パーティーの雑用にすぎなかった。
しかし、今の俺は違う。
振り返れば、鈴木、アンディ、李、エミール、サーニャ――世界各地で出会った仲間達がいる。
そして今、俺たちは魔王の根城である魔王島に来ていた。
辺りは静まり返っている。
それもその筈。
俺たちがここに来る間に魔王軍幹部は全て撃退済み。
残るは魔王一人だけだ。
と、その時だった。
前方から4人の男が現れた。
一人は身長2mは超えているであろう筋肉ムキムキのごりごりマッチョ。
一人は右手に銃、左手にナイフを持った小柄、それでいて底の見えない子供。
一人はその美しい金色の髪を風になびかせ、敵ながら見とれてしまう程の美貌の持ち主。
一人は右手で杖を突き、歩くのもやっとの見ているだけで心配になる老爺。
俺はそいつらが誰だかは知らない。
しかし、『強い』という事だけは身に纏う覇気を見れば一目瞭然だ。
「…………誰だ?」
一応、俺は確認を取っておく。
もしかしたら魔王を討伐しにやって来た別の冒険者パーティーの可能性、というのも否定ができなかったからだ。
しかし、現実はそんなに甘くない。
「くっくっくっ、我は魔王4天王の一人」
「僕たちは君のような愚か者に現実を見せる為にやって来たんだ」
「一般人風情が私たちの長である魔王と戦うなんて100年早いわ」
「ダカラ、ココデ、コロス」
魔王4天王からは予想通りの回答が帰ってくる。
って事は――どうやらやるしかないみたいだな……と、その時だった。
「ここは私達に任せなさい!」
「 Do not worry and go aheed」
「任我也」
「 Go tapa」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると――そこには頼れる4人の仲間が立っている。
それで俺はやっと気づく。
俺は一人では無かった事に。
だけど――
「駄目だ! 危険すぎる! 奴らは専用カードを持ってるんだぞ!」
そう、奴ら魔王軍は普通じゃない。
ユビキタスの町で俺たちは魔王軍の強さの秘密に気づいたのだ。
魔王はカードゲーム会社社長の息子。
その為、社長の息子という権利を利用して自分だけのオリジナルカードをたくさん作ってもらっている。
そんな偽りの強さで社長の息子は魔王になり、魔王軍を作った。
魔王軍にはそのオリジナルカードが至急されていて、一般プレイヤーの俺たちが勝つ事は非常に困難。
それなのに――それなのに――
「そんな相手に勝てる訳がない! こいつらは俺が倒す!」
俺はそう叫ぶ。
だってそうするしか方法が無いから。
はっきり言って俺以外に魔王四天王に勝てる奴なんていない。
チートを持った魔王相手には同じくチートを持った俺しか勝てないんだ。
だから逃げて欲しい、そう願うしかない。
しかし、そんな俺の気持ちとは裏腹に鈴木は俺に言い放ってくる。
「確かに……悔しいけど私達じゃ四天王に勝つ事なんてできない。でも時間稼ぎくらいならできる!」
「……時間稼ぎ?」
「そうよ、なるべく自分のターンで出来る限り長考すれば数時間は時間が稼げる筈!」
「馬鹿! 確かに時間稼ぎはできるかもしれない! でも結局勝てないじゃないか!」
「いいのよ……それで。時間稼ぎさえすれば、きっとあなたが魔王を倒してくれる、そう信じてるから」
「お前、サーニャの件を忘れたのか! 魔王軍相手にデュエルで負けると死ぬんだぞ!」
「忘れる訳ないじゃない! でも……そうするしかないんだよ、お願いだよ、私足手まといにはなりたくない!」
「鈴木……お前……いや、分かった。ここは任せた」
「うん、任されたわ」
「でも……最後に一つ約束をして欲しい」
「?」
「必ず……死ぬなよ」
俺は最後にそう言って、その場を急いで立ち去る。
これ以上ここで時間を食う訳にはいかない。
後、5分で魔王は完全覚醒してしまう。
そうなってしまっては鈴木の覚悟も決断も全て無駄になってしまう。
だからもう振り返らない。
鈴木の事ももう忘れてしまおう。
でも――でもさ――最後に一つだけ言わせてくれよ。
「何で……何で……何で最後の約束、頷いてくれなかったんだよ、鈴木...」
俺はそう呟いた。
ポトン、ポトン。
俺の両目から滴り落ちた甘酸っぱい液体の音とともに。
◇
そうして魔王のいる部屋の扉の前に俺は着いた。
最後にデッキの調整、入念なシャッフルを軽くした後、俺はその扉を開ける。
と、その瞬間
「うわぁーーーーーーーーーーー」
HP:4000→HP:0、デュエル終了。
一つのデュエルが終了した。
どうやらさっきまで魔王がデュエルをしていたらしい。
そして相手は……そう思い、さっきデュエルに負けて死んだ奴を見る。
するとそこには、俺の覚醒のきっかけとなった勇者の死体があった。
どうやら勇者は魔王に勝負を挑んで負けたらしい。
恐らく勇者は、俺が先に魔王を倒す事を恐れ、俺たちが魔王の注意を引き付けている間に魔王を倒しに来たのだろう。
まったく……卑怯な奴だ。
よく見れば斉藤などの勇者パーティーも部屋の隅にいる。
が、しかし、彼らの様子が何かおかしい。
体はぶるぶると震え、唇は紫に染まり、髪の毛が抜けていき、顔が物凄い青ざめている。
しかもおかしな所はそこだけではない。
よく見れば、魔王は先行1ターン目で明らかに余裕で勇者を倒したように見える。
勇者はこれでも勇者だ。
数年間勇者の下で雑用してきた俺なら分かるが勇者はかなり強い、『強者』だ。
しかし、目の前の魔王はその勇者を先行1キルで余裕で倒した、『圧倒的強者』。
だが、怖気づく訳にも行かない。
俺は中央のデュエルフィールまで向かい、デッキをセットする。
社長の息子なだけあって、デュエルフィールドは最新式でイカサマなどもできなそうだ。
ということで――
「さっさと始めようぜ、魔王!」
「くっくっ、それでは始めようじゃないか」
「それじゃあ、まずは山札から初期手札の5枚を引くぜ!」
その瞬間、俺は自身の《プレイヤースキル》でエグゾディアンコのパーツ5枚を手札に持ってくる。
これで後は先行だろうが後攻だろうが関係ない。
デュエル開始0秒で魔王様の鼻っ面をへし折ってやる!
「さぁ、いくぜ、先行は譲ってやる、魔王!」
「くっくっく、それでは最期のデュエルを始めようではないか!」
そうして今、戦いの火蓋が切って落とされた。
「「「デュエル!」」」
その後、彼らのデュエルの勝敗を知る物は誰一人としていなかったという。
the end
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