第1話 勇者パーティーから追放された
目の前には勇者とその他数人の勇者パーティーがいた。
そして勇者が俺に言い放った。
「お前弱すぎる……入って早々悪いがお前はこのパーティーから抜けてもらう」
「そこを何とかお願いします! 俺にはもう帰る場所なんて無いんです!」
「そんなの知らん。大体、魔王軍の下っ端にも勝てない程弱い奴を私のパーティーに入れておく訳ないだろ」
「うっ…………」
その言葉はもっともだった。
俺はさっき魔王軍の下っ端とかいう雑魚にカード勝負──デュエルで負けたのだ。
この世界はデュエルの勝敗……つまりカードゲームの強さによって全てが決まる弱肉強食の世界。
「で……でもあれは手札が悪かっただけで! 運が良ければ勝てたんだ!」
「運? お前の《プレイヤースキル》はその為にあるんじゃないのか?? 大体お前の《プレイヤースキル》じゃ魔王相手に戦うには力不足だろ」
「うっ…………」
またしても俺は言い負かされてしまう。
そう、この世界のカードプレイヤーには一つだけ自分専用のスキル……《プレイヤースキル》が与えられる。
俺の《プレイヤースキル》は<絶対操作>。
ゲーム中に一度だけ、ドローするカードを操作できるスキルだ。
別にそこまで弱くはないのだが……正直魔王を相手するには弱すぎる。
前年度世界チャンピオンの能力なんて、無限に自分のターンを繰り返せるチートスキルだからな。
それでも魔王に勝てないのが現状だ。
俺のスキルが魔王に通じないのは子供だって理解できる。
だけど──
「雑用でもいいから連れててってくれ! 何でもするからさ!」
「ん? まだ引き下がらないのか? だったら……デュエルをしよう」
「……デュエル?」
「そうだ。私に勝てたら何でも言う事を聞いてやる。逆に負けたらさっさと出てってもらう」
勇者は呆れた感じにそんな事を言ってくるが……正直に言ってこの条件では俺が負けて出ていく事が確定してしまう。
一体どうすれば……と考えていた、その時だった。
俺は気づく。
勇者への勝ち方に。
本当にできるかは分からないが、もし可能なら100%勝つ事ができる。
1回試しにやってからにしたいが……仕方ない。
俺はそう決心して、勇者からのデュエルの誘いを受ける事にする。
「ありがとう、勇者。約束通り俺が勝ったら、お前は何でもしてくれるんだよな?」
「ああ、分かっているさ。それではデュエルを始める。斉藤、デュエル机を持って来い!」
「イエス、アイ、アム」
勇者の命令により、勇者パーティーの一人である斉藤が背中に背負っていたリュックサックから簡易式の折り畳み机を出し、組み立てる。
これにてデュエルフィールドの完成だ。
「ありがとう、斉藤。それではデュエルを始めようじゃないか」
そうしてお互いに最初の手札を5枚引いて、デュエルが始まった。
『デュエル!!』
デュエルの開始と共に勇者が先行を取り、ドローをしようとするが──
「先行は私が頂く、ド……」
「あ、俺の勝ちです」
俺がその出鼻をくじいてしまった。
1回も試した事がなかったから心配だったけど……どうやら成功だったな。
そう思いながら俺は、自分の手札5枚を勇者に見せる。
そこには──
封印されし右目、封印されし左目、封印されし口、封印されし髪の毛、封印されし顔面の5枚が揃っていた。
そしてこの5枚のカードの効果は、手札にこの5枚が揃った瞬間、合体してエグゾディアンコになって勝利するという運ゲーカードだ。
「ば……馬鹿な……初手でこの5枚が揃っただと……?」
「うん」
とても驚いた状態での勇者の質問に俺は、正直に答える。
「な……1枚だけなら操作できるが、5枚とも最初に集まるなんてただの運じゃないか!」
「違うけど……」
「あーー駄目だ! 運ゲーじゃねーか! もう1回勝負すれば今度は絶対に負けない!」
「いや、だから運じゃないって……」
どうやら勇者は俺が運で5枚揃えてたまたま勝ったと思っているようだ。
だが、それは誤解だから一応説明くらいはしておこう。
「だからこれは運じゃなくて、俺の《プレイヤースキル》で揃えたんだって」
「それでも運だろ! お前の《プレイヤースキル》はゲーム中に1度だけドローするカードを操作できる能力! 1枚は操作して持ってこれるが、残りの4枚を引いたのは運ではないか!」
「……ああ、まぁ普通そう思うよな。でもさ……その一度だけドローって最初に5枚の手札をドローする時、5枚まとめて一度って解釈もできるだろ?」
「な……なんだと!?」
「つまり俺はゲームスタート時の最初の手札5枚をドローする時に俺の《プレイヤースキル》、<絶対操作>で5枚同時操作して封印されたパーツ……エグゾディアンコのパーツを揃えて勝利したって訳」
「な……そんな事ありえる訳……」
「でも事実そうなってるだろ?」
「…………」
俺が勇者を完全論破してやると、勇者はしばらく黙った後口を開いた。
「分かった……お前の力を認めよう。私のパーティーに入る事を許可する」
「いや、やっぱいいや」
「な……なんだと!? 何故だ!?」
「いや、だって俺にメリット無くなったから。今の俺は最強な気がするし、俺が単独で魔王を倒してきてやるよ。勇者パーティーは解散させて無職にでもなってな」
「た、確かに!? お前……一体何処まで計算しているんだ?」
「さぁな」
「な……私はこんな優秀すぎる部下を手放してしまったのか……」
勇者が何か呟いているようだが、俺は無視して魔王の拠点がある方角に歩き続ける。
こうして俺が魔王を討伐する、第一歩が始まったのであった。




