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フタツ


 もう何もなくなってしまった。

 そうか、もう何もなくなってしまったのか。

 もう取り返しがつかないところまで来てしまった。

 そうか、もう取り返しがつかないところまで来てしまったのか。

 もう戻れない。

 そうか、もう戻れないのか。


 そうしたら僕には何ができる?

 何をする力も僕にはない。

 わかっている。わかっていた。

 僕から暴力を取ってしまったら、他には何もないのだから。


 ”転ガッテイルノハ、何?”


 知らない。

 そんなもの、僕は知らない。


 ”ソレハナニ?”


 黙れ。僕はそんなものを知らない。

 だって僕は初めて、初めて見たのだもの。

 何度目、何度目なんて、知らない。

 繰り返されることなんて、知りたくない。


 違う、本当は知っている。

 本当は知っているんだろ?

 

 ”転ガッテイルノハ、人、ヒト、人”


 どうしてそんなものが転がっているのだと考えられよう。

 この手が汚れているのは、どうしてなのだろうか。

 洗い流しても、流せるものだとは思えなかった。

 だからこそ洗い流してしまいたかった。


 そうしてしまわなければいけないものだろう?

 だってこの手はこんなにも汚れてしまっているのだから。

 汚れてしまっている、その理由など僕は知りはしない。

 それだけれど、それだからか、綺麗にしたいのだ。

 どれほど綺麗に磨いたところで、どれほど洗おうとしたところで、これがどうにかなろうはずもないことを僕は知っていたはずなのに。

 馬鹿だな、僕は。


 人が転がっている理由を僕は知っているだろう。

 僕が兵器であることを、そう呼ばれていることを、僕は知っているに決まっているのだから。


 ”嫌。嫌。嫌。嫌”


 嫌。嫌。嫌。嫌。

 どうしてお前がそんなことを言うんだ。

 お前は黙っていればいいんだ。嫌ならば尚更、黙っていればいいんだ。

 嫌なのは僕の方なのだから!


 叫ぼうとした。声は出なかった。

 人は僕を見る。人は僕を笑う。人は僕を責める。人は僕を使う。

 助けてくれ、嫌だ、僕にだって心くらいはあるんだ、僕は兵器なんかじゃない、声は出なかった。

 叫ぶ声を僕は持っていなかった。



 あれ? 僕はどこで声を落としてしまったのだっけ。

 あれ? いつから僕はこんなに静かになってしまったのだ?

 兵器と呼ばれて、自ら兵器に近付いていってしまっていたのだろうか? 無意識のうちに、いつの間にか。

 本当は嫌なのに決まっているのに。


 嫌だ嫌だとせめて叫べたらば、この想いが伝えられたらば、僕は人として扱ってもらえるのだろうか。

 人って、人って?

 ここに転がっているもののことか?

 兵器として扱われるのは嫌だと叫べたらば、僕はここに転がっているものと同じようになれるのだろうか?


 僕は、そんなものになりたいのか?

 僕は、弱くなりたいのか。

 せっかく強く生まれてきたというのに、どうしてわざわざ弱くなることを望むようなことがあるだろうか。

 孤独が嫌なんだ。


 弱ければ群れる。弱いから群れる。

 そうしなければ生きていけないから。

 弱ければ人を騙す。弱いから他者を騙す。

 そうしなければ生きていけないから。


 ”呼ビ掛ケテモ、ダレモ、ダレモ答エテハクレナイ”


 弱ければ弱い、生きてなど行けていないじゃないか。

 何をどう僕が言おうとしたところで、何もどうにも声にはならないし、何を言おうとだれも答えてはくれない。

 答えられないから。お前らは、だれも……。


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