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ヒトツ



 もう何も考えたくない。もう何も考えたくない。

 だって考えると、苦しくなるから。

 だって考えていても、苦しくなるだけだから。

 それだったら、何も考えない方がいいじゃないか。


 ”何度目ダロウカ。マタ同ジ。何度モ何度モ”


 五月蝿い。五月蝿いよ。

 頭の中に響いて来る声を、首を振って必死に掻き消そうとする。

 だけど変わらずに、僕を狂わせるように、頭の中に直接その声は響いて来る。

 それが苦しくて、苦しくて、堪らない……っ!


 ”一体、何度目ダロウカ。同ジ過チヲ繰リ返スノモ”


 わかっている。

 間違ってしまっていたことも、僕はちゃんとわかっているのさ。

 だけれども、わかっているのと、そうなってしまうのとでは、また別の話ではないか。

 違う。開き直ったと言うわけでは、ない。

 逃げたいとは思っているけれど、逃げるつもりはない。


 ”僕ハ何度、コノ光景ヲ見タダロウ。何度? ソンナノ、数エラレルハズモナイ”


 わざとじゃなかったんだ。

 望んでやったことじゃなかったんだ。

 僕の訴えは、だれに届くこともない。

 僕自身に届いていないものが、僕の外へ出るはずがないというものである。

 だれも僕のことを許すことができる存在はいないのだ。


 このまま僕は殺戮の道具として生きていくしか、道はないのだろうか。

 そんなのは嫌だ!

 嫌だ。嫌か。

 それじゃあ、どうする?

 嫌だからと言って、何かできるのか?

 他に道は? ない。ない。ないじゃないか……!


 ”傷付イテ傷付ケテ、モウ嫌ダト叫ブ。コノ声ハ届カナイ。キット声ニハナッテイナイカラ”


 嫌だ。嫌だよ。

 この叫びもきっと、心の中だけで響いている。

 そのくせ、音にならずに僕を苦しめるこの”声”にも、届いてはくれないのだ。

 何をどうしたらいいのかも、どうしたら変われるのかも、僕は知らない。

 変わったことがいないのだから、変わり方など知るはずがなかった。


 僕はずっとそうして生きてきた。

 だから僕はそうした生き方しか知らない。その形しか知らない。

 それじゃあそんな僕には何ができる?

 ああ、これしか僕にできることはないのだ。

 これしかできないのだ、僕には……。


 ”傷付クタメニ傷付ケテ、傷付ケル度ニ傷付イテ、ドウシテ僕ハココニイルノ?”


 そんなこと僕が知るかよ!

 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い、五月蝿いんだよ!

 必要とされているから僕はここにいるんだ。

 どうしてなんて、僕が知ったことじゃない。

 ここに僕の役目があるから、ここに僕の力を求める人がいるから、僕はただここにいるんだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。


 ”本当ニソレデ納得デキルノカ?”


 黙れ!

 お願いだから、黙ってくれ。

 黙ってくれよ。静かに、していてくれ。

 そうでなければ、僕は狂ってしまうよ。


 狂う方角は二種類ある。

 そのどちらに進むかは、僕にだってわかりやしない。

 だからこそ。だからこそ、尚更どうにか止めてほしいのだ。

 僕はそれが辛くて仕方がないのだから。


 ”逃ゲルノカ。今マデ自分ガシテキタコトカラモ”


 そうだよ。逃げるんだ。何が悪いって言うんだ。


 ”向キ合エ。ソウジャナクチャ、マタ繰リ返スダケダ”


 向き合ったって、また繰り返すだけじゃないか。

 もうわかっている、もう引っ掛からない、もう騙されやしない。

 何度、繰り返してしまったと思っているんだ。

 あの惨たらしい光景が目に焼き付いて離れない。


 僕は、兵器でしかないのだろうか……?

 だれか僕を助けては、くれないのか。




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