クソネミでハラヘリな時に見る夢
腹が減った。
買い置きのカップ麺も冷食もない。冷蔵庫の中身は紙パックの牛乳とペットボトルの麦茶。それとバラエティ豊かな調味料たち。他は……玉ねぎがあったような、なかったような。自炊をしないならしないままでいいのに、たまにやる気を出すからこうなる。
仰向けになって、ぼんやりと暗い天井を眺める。
コタツに飲み込まれた下半身だけが妙にポカポカと温かい。俺は「さぶさぶ」と呟きながら、外気にさらされて冷えた肩をかばうようにコタツ布団の中にもぐりこんだ。
ブーンとコタツがうなり声を上げて熱を発している。
熱気がこもりにこもった濁った空間に身を置いて、再び襲い掛かってきた空腹感に身をよじらせる。
胃袋がキュウキュウと締め付けてエネルギー供給を促してくる。もう腹に穴をあけて、直接胃袋におにぎりやパンを詰め込みたいくらいだ。
手探りでスマートフォンを掴んで、コタツの中へと拉致したところ、もう深夜0時を回っていることが明らかとなった。コンビニ飯か、居酒屋か、ラーメンか……選択肢はそんなところか。
頭の中では「こたつが出たくない」を掲げる怠惰軍と、「とんでもなく脂ぎったスープのラーメンが食べたい」を掲げる空腹軍が合戦を繰り広げていた。
しかし両軍はペチペチと軽く小突き合う程度の応酬しないため一向に戦況が変わらない。いたずらに時間だけが過ぎ去っていく不毛な争いだ。遠目から見たら、仲良くじゃれ合ってるようにしか見えないだろう。偵察に来ていた心の猿飛佐助が「あいつら何やってるんですかね?」と聞いてきたので、俺は「わからん」と威厳たっぷりに答えてやった。
なぜ、急に猿飛佐助が出てきたのか。
そして俺はどういうポジションの存在なのか。
やっぱり「わからん」としかいいようがない。起き抜けに考えることなんて、誰だってこんなもんだろう。
そんなことを考えている間も、空腹の波は過ぎ去るばかりか徐々に大きく膨らんでいくようだった。くるのか。来てしまうのか。伝説のビッグウェーブが。サーフボードに乗ったイケメンが、引き締まった肉体を見せつけるようにポーズをとりながら空腹の波をすべっていく。大変腹立たしい。
浜辺にはワーキャー黄色い歓声を上げている若い女性たちがいた。飛び上がるたびに、ぶるんぶるんと、たわわに実った果実が揺れる。もげそう。そしておいしそう。やはり、おっぱいは食べ物だったんだな……また一つ宇宙の真理にたどり着いてしまった。
そこで俺の意識は完全に覚醒した。
いかんいかん。さすがに何か口にしなくては餓死してしまう。スマートフォンの時間を見ると午前7時前だった。これから仕事だっていうのに、昨日から何も食べてないんじゃ身体が持たない。スマートフォンと財布と自宅の鍵だけポケットに詰め込んで、俺はコンビニへと走った。
こうして、怠惰軍と空腹軍の戦いは終わりを迎えた。
実は空腹軍のバックには「仕事行かなきゃまずい」を掲げる社畜軍がついていたのだ。空腹軍は社畜軍の傘下として加わり服従する代わりに、必要最低限の兵糧を受け取る密約を交わしていたのだった。
社畜軍と手を組まれたのなら仕方ないと怠惰軍は泣く泣く撤退を余儀なくされ、空腹軍の勝利で幕を閉じたのであった。。
その一部始終を見ていた心の猿飛佐助が「なんだったんですかね、これ?」と聞いてきたので、俺は「わからん」と威厳たっぷりに答えてやった。
おしまい
猿飛佐助「なんだったんですかね、この小説」
わたし「わからん」